研究概要 |
タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類は、形態・生態が多様であることや複数の系統を内在することから、様々な進化様式を経た種類が混在していると考えられる。しかしこれらは、高次分類群(族)のレベルで形態と分子データの間に矛盾が指摘されており、進化様式を解明するための基礎となる分類が混乱した状態にあった。このことから、まずこれら魚類を比較形態学的に調査し、族の整理を行った。この研究は原著論文として発表された(Takahashi,2003)。さらに新種の発表(Takahashi & Nakaya,2003)や属の整理(Takahashi,2004)も行い、本魚類の基礎知見を蓄積した。これにより、本魚類の適応放散メカニズムを解明する基礎が着実に固まってきたと言える。 一方、本研究の主題であるタンガニイカ湖産カワスズメ科魚類の適応放散も、種によって異なる要因に起因すると考えられる。その一つの例として、昨年から引き続きTelmatochromis temporalisの岩住型と貝住型の遺伝的・形態的違いを解析した。その結果、両者に明瞭な違いがあることが判明し、現在Journal of Fish Biology誌(英国)に投稿中である。遺伝的データによりこれらの型は非常に近縁であることが明らかとなり、通常では同種レベルの差しかない。これら二型は分布域が重なり、基質の違いだけが二型を維持させていると考えられる。これは、基質に対する側所的種分化を介した適応放散の一例と考えられ、このことが明らかとなれば、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類に於いて初めてのこととなる。他にも本種に於いて同様の二型が存在する場所が数カ所知られており、それぞれの関係を解明することは今後の課題と考えられる。
|