研究概要 |
空間上に散在し、発生予測が困難な食物資源であるボナンザ型食物資源を利用する昆虫類の生活史適応の解明を目標に、菌類の子実体(キノコ)上で繁殖する食菌性甲虫の生活史適応様式について調査を行った。本年度は食菌性昆虫の生活史適応様式の地理的変異について検討するため、茨城県での生活史が既知であるニホンホソオオキノコムシDance japonicaの岩手個体群の生活史について調査した。 本種は、夏期にほとんどキノコが発生しない茨城県下では主に春と秋に発生を行うシイタケLentinula edodesを寄主とし、春繁殖後、夏期から翌年春までの長期成虫休眠を行う年1化性の生活史を行う。この生活史制御が夏期の環境条件に対する適応なのか、それとも食物資源であるキノコの発生に対する適応なのか検証するため、夏期が短く低温である岩手県下での本種の生活史を調査し、茨城県個体群との比較を行った。野外調査の結果、岩手県下でもシイタケは茨城と同様に春と秋の2回発生したが、ヒラタケ類などは夏季に多かった。そして、岩手県下でも本種は主に春繁殖を行うが、一部個体が高温長日条件によって生殖休眠覚醒し夏期にも繁殖する部分2化性の生活史を行うことが明らかとなった。また、室内実験の結果、本種の卵から成虫までの発育零点と有効積算温度は、茨城、岩手個体群それぞれで9.9℃・589.8日度、10.2℃・554.3日度とほぼ同様であったが、卵期の発育零点はそれぞれ9.2℃,4.1℃と岩手個体群で著しく低かった。茨城県と岩手県の積算温量から推察される本種の発生可能回数はそれぞれ3回と2回であることから、いずれの地域においても本種は成虫の生殖休眠により春繁殖するための年間スケジュール調整や発育適応を行っていることが明らかとなった。そして、岩手の個体群では一部の個体が夏期のキノコの発生に繁殖調整をしていることなどから、食菌性昆虫が食物資源の発生時期に合わせるよう生活史制御していること、各地域でのキノコ発生にあわせた地理的変異が存在することが検証された。
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