ヒバ-根圏微生物間相互作用の生物・化学的解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02J20217
• 研究機関: 独立行政法人森林総合研究所
• 研究代表者: 山路 恵子 独立行政法人森林総合研究所, 東北支所, 特別研究員(PD)
• キーワード: ヒバ / 育苗 / 根圏微生物 / 二次代謝産物 / テルペノイド / フェノール性化合物 / 植物-微生物間相互作用

研究概要

1.土壌の違いと種子発芽率、生存率、苗高成長調査
本研究所では播種床に苗畑の黒土ではなくカヌマ土を利用し、苗木の早期育苗に成功しているため、両土壌を用いて比較実験を行った。4月下旬に種子を両土壌に播種し、6-11月にかけて発芽率、生存率、苗高成長を調査した結果、発芽率や生存率には差がなかったが、苗高成長は10月以降に黒土の実生が1cm程度カヌマ土を上回った。本実験ではカヌマ土を用いた育苗上の利点は見いだせなかった。
2.根圏微生物(根面菌、根内菌)の同定
7,9月に実生を採取し根面菌、根内菌を調査した。根面菌は両土壌で大きな差はなく、7月はPenicillium・Cladosporium・Gliocladiumや種子由来のPetalotia・Phomopsis属糸状菌、9月はPenicillium・Trichoderma属糸状菌が主に分離された。根内菌は両土壌間で差があり、カヌマ土の実生からは種子由来のPhomopsis属糸状菌が分離された。黒土の実生にはarbuscular菌根菌が顕著に感染していた。Arbuscular菌には根部の栄養吸収を助け植物の成長を促進させることが知られていることから、黒土の実生は他の土壌に移植した際にも効率的に成長する可能性が予想された。カヌマ土の実生の根内部Phomopsis属糸状菌の影響は現段階では明らかではない。
3.実生の地上部、地下部の化学成分の調査
7,9月に採取した実生の地上部、地下部のヘキサン可溶性化学成分をGC-MS分析により調査した。両土壌の実生の7,9月の地上部の化学成分には、質的・量的な差異は観察されなかった。地下部の主成分はトタロール(抗菌物質)であったが、9月のカヌマ土の実生のトタロール量が、黒土の実生に比べて上昇する傾向にあった。カヌマ土の実生では二次代謝系が活性化し、化学的に"強い"根部が形成されていると予想された。

研究成果

• [文献書誌] 森茂太, 山路恵子, 石本洋ら: "2つの異なる土壌でのヒバ種子の発芽率と実生成長"東北森林科学会誌. 8. 108-110 (2003)
• [文献書誌] 森茂太, 山路恵子, 石本洋, 下田直義, 櫃間岳, 窪野高徳, 糸屋吉彦: "ヒバ実生根面の不完全菌類"東北森林科学会誌. 8. 111-114 (2003)
• [文献書誌] Yamaji K., Julkunen-Tiitto R., Rousi M., Freiwaid V., Oksanen E.: "Ozone exposure over two growing seasons alters root-to-shoot ratio and chemical composition of birch (Betula pendula Roth)."Global Change Biology. 9. 1363-1377 (2003)
• [文献書誌] Yamaji K., Ishimoto H., Usui N., Mori S.: "Organic acids and water-soluble phenolics produced by Paxillus sp. 60/92 together show antifungal activity against Pythium vexans under acidic"Mycorrhiza. (in press and online-published). (2004)
• [文献書誌] M.-L.Laitinen, R.Julkunen-Tiitto, K.Yamaji, J.Heinonen, M.Rousi: "Variation in birch bark secondary chemistry between and within clones : implications for herbivory."OIKOS. 104. 316-326 (2004)
• [文献書誌] Koike, T., Matsuki, S., Matsumoto, T., Yamaji, K., et al.: "Bottom-up regulation for protection and conservation of forest ecosystem in northern Japan under changing environments."Eurasian Journal of Forest Research. 6. 177-189 (2003)