研究概要 |
1.土壌の違いと実生成長、根圏微生物 林地で実生が更新する場所は鉱質土壌が多いことから、本研究所では通常の黒ボク土ではなく、鉱質土壌のモデルとしてカヌマ土を苗床に利用している。03年4月下旬に種子を両土壌に播種し、同年6月から04年6月にかけて苗成長を比較調査したところ、植え替え直前の黒ボク土の実生で成長量が有意に増加した。ヒバの根に共生するArbuscular菌の感染率は黒ボク土の実生で顕著に高く、カヌマ土の実生ではPhomopsis属糸状菌の感染頻度が高かった。 2.実生成長に関与する化学成分(C, N, Mg, P, Fe, Ca) 03年9月、04年6月の地上部、地下部において、Nの量が黒ボク土の実生で顕著に多かった。Cは全ての時期で差がなかった。また、地上部では03年9月以降、地下部では03年7月以降に、MgとPの量が黒ボク土の実生で顕著に多かった。共生菌であるArbuscular菌は植物体内への無機成分の取り込みを助長することが知られている。黒ボク土で生育させた実生にはArbuscular菌が高感染しており、本菌と共生することで生育が良好になっていると予想される。 3.実生の生体防御に関与する二次代謝成分 地上部と地下部の二次代謝成分の分析を行った。03年9月の地上部で、トータルフェノール量がカヌマ土の実生で顕著に多かった。根部では全ての時期で差がなかった。HPLC分析の結果、地上部ではcatechinとその誘導体が主要成分であり、03年9月、04年6月のカヌマ土の実生でこれらの量が顕著に多かった。地下部ではcatechin、catechin誘導体やtotarolが主要成分であり、04年6月のカヌマ土の実生でtotarolの量がやや多い傾向にあった。以上のことから、カヌマ土の実生では二次代謝系が活性化し、病害や虫害に対して化学的に"強い"根部が形成されていると予想される。
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