Aktは細胞の生存に重要な役割を果たすセリン・スレオニンキナーゼである。最近、Aktの活性化を抑制するPTENの欠失や変異、Aktの遺伝子増幅が多くの癌で見い出され、Aktは細胞の癌化に関わる分子としても注目を集めている。また正常細胞ではあまり活性化していないことから、Aktは抗癌剤の標的として適している。しかし、Aktを標的とした抗癌剤は未だない。そこで本研究ではAktを標的にした癌治療法の開発を目的とし、まずAktの活性を抑制する薬剤の探索を行なった。その結果スタウロスポリンや、その誘導体で現在抗癌剤としての開発が進められているUCN-01がAktの活性を抑制することを見出した。Aktの活性に対する抑制効果はスタウロスポリンよりもUCN-01で強く認められた。Aktのシグナル伝達路におけるUCN-01の標的分子を探索した結果、Aktの上流のキナーゼであるPDK1キナーゼがその標的であることが明らかとなった。UCN-01は細胞内、in vitro、さらにマウスに腫瘍を植え付けたtumor xenograft modelにおいても特異的なPDK1抑制効果を示した。そこでUCN-01によるPDK1抑制効果がUCN-01の抗腫瘍効果に寄与しているかを検討した。細胞にUCN-01を処理した後、アポトーシスのマーカーであるCaspase-3の活性化を検討したところ、活性化型Aktを発現させた細胞ではコントロール細胞に比べてCaspase-3の活性化が抑制され、アポトーシスが抑制されていた。このことからUCN-01によるPDK1-Akt経路の抑制は、UCN-01による抗癌活性の発揮に重要であることが明らかとなった。(714字)
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