研究概要 |
ホヤ胚発生過程の細胞系譜は詳細に記載されており、原腸陥入直前の110細胞期までにほぼ全ての割球の発生運命がオタマジャクシ幼生の単一の組織に限定される。また、運命の限定と前後して発生運命の決定(自律分化能の獲得)が起こる。本研究で対象としている、FGF9/16/20を介した誘導により運命決定がなされる脊索、脳、間充織の3つの組織は、誘導により引き起こされる非対称分裂の結果、それぞれのデフォルト(誘導を受けない場合)の運命である神経索、表皮、筋肉との分岐が起こる。この過程には多数の遺伝子発現を伴うと考えられるが、その多くは未知である。我々は、これらの運命決定・分岐に伴い発現する遺伝子を網羅的に明らかにすべく、カタユウレイボヤ全遺伝子の約80%をカバーするマイクロアレイ(オリゴチップ)を用いた遺伝子発現解析を行っている。 今年度は、最初に、脊索/神経索の運命分岐における遺伝子発現の差異を調べた。脊索/神経索の運命分岐は32細胞期から64細胞期の分裂時に起こる。64細胞期胚から予定脊索割球および予定神経索割球を各2,200個ずつ単離し、それぞれからRNA抽出、増幅、ラベル化プローブ合成を行い、オリゴチップを用い発現量を比較した。その結果、脊索に発現している候補遺伝子を112個、神経索の候補遺伝子を84個得た。脊索の候補遺伝子には、Bra, Fkh, Chordinなど既知の脊索遺伝子に加え、Mnx, Eph, MAPKPなどの転写因子、シグナル分子が見られた。また、多くの遺伝子は機能未知な遺伝子であった。一方、神経索の候補遺伝子の内、15遺伝子はミトコンドリアの遺伝子であり、ミトコンドリア自体の分布を調べてみると確かに神経索に偏って分配されていた。残り69遺伝子には、FGF9/16/20,FoxB, Wnt5などの転写因子、シグナル分子に加え、NCAM, protocadherinなどが見られた。また、脊索と同様に機能未知な遺伝子が多く見られた。現在、これらの候補遺伝子の発現をWISHで確認している。来年度は、脊索/神経索の運命分岐と同様に、脳/表皮、間充織/筋肉の運命分岐に伴い発現する遺伝子の解析を進める予定である。
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