糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病では、インスリン分泌障害と共にインスリン作用障害(インスリン抵抗性)が認められる。肥満による脂肪蓄積が骨格筋等に生じると、インスリンシグナル伝達が阻害されるとする説(脂肪毒性説)が、インスリン抵抗性のメカニズムを説明する仮説の一つとして注目されている。骨格筋細胞内に取り込まれた脂肪酸は、ミトコンドリアの膜に存在するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)を通過して、内部に運ばれβ酸化を経て代謝される。この際、CPT1活性がβ酸化の律速となることが知られている。このCPT1活性の低下が、2型糖尿病患者における骨格筋脂肪蓄積の原因の一つとして考えられる。そこで、肥満糖尿病モデルマウス(KKAyマウス)および高脂肪食負荷したマウスの骨格筋にCPT1を過剰発現させることによって、脂肪蓄積ひいてはインスリンシグナル伝達の改善を図り、その前後の遺伝子発現の違いをDNAチップを用いて網羅的に解析することとした。ウイルスベクターを用いて、CPT1をKKAyマウス骨格筋に過剰発現させたところ、3ヵ月後には7〜8%の体量増加の抑制が認められた。このとき、CPT1を過剰発現させた群はコントロール群に比して、脂肪肝の抑制(肝臓のトリグリセリド含量にして約50%)および脂肪肝によって引き起こされる肝腫大の抑制(肝重量にして約20%)を伴っていた。また、同様の方法で高脂肪食負荷マウスの骨格筋にCPT1を過剰発現させたところ、発現2週間後において、CPT1を過剰発現させた群はコントロール群に比して空腹時血糖が約40mg/dl低かった。今後、体重等の変化についても検討してゆく予定である。
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