本年度は、「国際環境条約の国内実施過程」について考察する準備作業として、主に次の2つの作業を行った。事例として、「オゾン層保護」を取り上げている。 第一に、既存研究をレビューすることにより、「条約の国内実施過程」を分析する視点を抽出し、有用だと思われる分析軸を整理した。それらは、(1)国際法と国内法との関係、(2)国際政治と国内政治との関係、(3)行政学における「Implementation研究」の3つに整理することができる。これまでの条約の実施に関する研究では、「いかに条約が遵守されるか」に視点をおくものが多かったが、条約の国内法体系との関係、国内政治との関係、企業・自治体による狭義の「執行過程」にまで視点を広げることが、「条約の国内実施過程」分析に有用であるとともに、既存の「Implementation研究」に新しい視点を提示できると考える。これらについては「環境政策研究会」(8月7日)で報告する機会をいただいた。 第二に、条約により設定された課題と、日本国内で蓄積されている政策・制度枠組みとの間にどのような相互作用があるかを検討した。条約の実施のために制定される国内法の制度設計とその実施体制は、国際レベルでの検討状況や条約の内容の影響だけでなく、日本国内の「政策遺産」の影響を受けるとの仮定を設定し、具体的には、日本で蓄積された化学物質管理の政策体系と行政体制の変遷を追い、オゾン層保護の政策体系と行政体制との関連性を検討した。日本においてオゾン層保護対策は、化学物質管理体系の延長としてとらえられたことが指摘できたが、さらに行政資源の連続性があったか等具体的な検討が必要である。これらについては、環境法政策学会の下部研究会である「環境法政策研究会」(1月17日)で報告する機会をいただいた。
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