昨年度に引続き、オゾン層保護のためのウィーン条約・モントリオール議定書を題材に、国際環境条約の国内実施過程に関する研究を行った。 本年度は、条約・議定書を日本国内で実施するために制定された「オゾン層保護法」の執行過程、すなわち、規制対象者が規制に対してどのように対応したかについて、事業者団体へのインタヴュー、業界雑誌等資料の収集を手段に、調査を行った。 「オゾン層保護法」の規制内容は、オゾン層破壊物質とされる規制対象物質の製造業者・輸出入業者に許可制・届出制を課し、規制物質を削減・全廃させるものであるが、規制目標の達成には、製造業者による物質の管理・転換だけでなく、使用業者側での物質転換・技術革新努力が不可欠となる。そこで、調査は、製造業者と使用業者の双方に対して行った。また、法に規定されている規制内容(製造・輸入の許可、輸出の届出)の執行状況を調査するだけでなく、規制を補完するために事実上の運用として実施されている措置にも着目した。すなわち、製造業者については、規制物質の製造の削減を確実に行ってきたかということだけでなく、規制物質を代替する新しい物質の開発、試験、商品化までのプロセスの実態を明らかにした。使用業者については、規制物質の使用分野(冷媒、発泡、洗浄)ごとに物質転換・技術革新の過程を追い、それぞれの対応方法の相違とその背景を明らかにした。 これらの実証研究に加えて、理論的枠組みの精緻化のために、既存研究のレビューを、昨年に引続き行った。既存研究では、特に国際政治・国際法でなされてきた「条約の実施」に関する研究と、政治学・行政学でなされてきた「政策の実施」に関する研究を学んだ。本研究の貢献は、両者を相互参照することにより、両者をつなげる視点を提示するとともに、「条約の国内実施過程」を実証研究することの意義を提示することにあると考えている。
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