本研究では、ナノスケールで制御された物理化学現象を、計算機シミュレーションにより第一原理に基づいて予見・解明する為の新しい計算手法とそのアプリケーションツールの開発を行ってきた。そこで、すでに考案した計算手法に基づいたアプリケーションツールの改良を行い、本アプリケーションツールを用いて原子細線の電気伝導特性に関して計算を行った。 1.アプリケーションプログラムの改良 現行のアプリケーションツールでは、計算負荷が大きいLU分解法を用いていた。そのため、現実に近い大規模な計算モデルを取り扱う際に、計算量の負荷が大きいため、現実的な計算コストで実行することが難しかった。そこで、より計算負荷のかからない最急降下法を用いたプログラムに変更した。これにより、大幅に計算時間および記憶容量が軽減され、大規模計算にも耐えうるプログラムに改良された。また、並列計算機にも適用できるように、アプリケーションプログラムを改良し、より現実的な計算時間で計算が可能となった。 2.原子細線の電気伝導特性の計算 本計算手法を用いたアプリケーションプログラムを用いて、2つの電極間に挟まれた金原子の細線に関する電気伝導特性の計算を行った。このとき、実験でもすでに試みられている電極を引き伸ばした際の原子細線の構造と電気伝導特性に注目し、計算を実行した。この結果、細線の平均原子間隔が2.8Å程度より短いときには、コンダクタンスは量子化されるが、それ以上に引き伸ばされると急激にコンダクタンスが減少し、3Å程度まで伸びるとコンダクタンスがゼロとなった。このため、2.8〜3.0Å間でコンダクタンスの金属・絶縁遷移現象が生じることが分かった。
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