イモリはレンズに損傷を受けたり、レンズを除去されたすると虹彩色素上皮の背側からレンズを再生する。イモリのレンズ再生過程は2つの段階に分けられる。第1段階では虹彩色素上皮細胞が肥厚して増殖する。これは虹彩の背側、腹側の両方に起こる。第2段階では、背側の肥厚した部分が透明な袋状構造をつくり、そこからレンズ分化が始まる。 本研究では、過去に行った実験の結果をもとに、レンズが損傷を受けると何らかの分泌性因子が虹彩色素上皮細胞に作用して再生が始まると予想した。そのような因子があるならば、それを眼内に注入することで、レンズを除去しなくてもレンズ再生が始まると考えられる。そこでそのような因子の候補として様々な成長因子を、レンズを除去しないイモリの眼内に、1回だけ注入した。 その結果、FGF2を注入した眼では再生の第1段階である虹彩色素上皮細胞の肥厚と増殖が開始された。その虹彩では、背側と腹側の両方で、内在性Fgf2とレンズ分化の初期に働く転写因子の遺伝子Pax6、Sox2、MafBの発現が上昇していた。次いで虹彩背側はレンズを除去した場合と同様に第2段階にすすみ、第2のレンズを形成した。 また、イモリの眼からレンズを除去すると、虹彩においてFGF2タンパク質の蓄積が起こった。その眼内にFGFR/Feを注入してFGFの活性を阻害すると、再生の第1段階である虹彩色素上皮の肥厚と増殖が全く起こらず、レンズは再生しなかった。 これらの結果から、イモリのレンズ再生では、FGF2が虹彩色素上皮に働きかけることが、再生開始の引き金となると結論された。そして、虹彩の腹側ではレンズ再生の第2段階への移行がブロックされているためにレンズ分化が起こらないことが示唆された。 現在は、再生の第2段階がどのような機構で始まるのかを検討している。
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