研究概要 |
東アフリカのリフト湖であるキブ湖とタンガニーカ湖はいずれも世界有数の深湖である。両湖の深水層の安定状態の差異は湖史の違いに左右されている。キブ湖は南緯2度,東経29度に位置し,多雨な赤道気候帯に属している。湖の流域は北方のニヤムラギラ,ニーラゴンゴ,ミケーノ,カリシンビ火山群の活動により,エドワード・キブ地溝の地穀構造単位が分断されている。現在,湖は南端からルジジ川によって流出し,約150km下流のタンガニーカ湖に注いでいる。キブ湖の形成は50〜100万年B.P.で,タンガニーカ湖の2,000万年B.P.に比べて,新しい地穀構造運動に寄因している。湖面積は2,376km^2,湖を含む流域面積7,300km^2で,最大水深485m,平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。然し,キブ湖は最終氷期が終わる約1万年前までは,湖水位は現在より300m低い水準にあったことが,湖底堆積物から明らかである。また,湖底から発生し,堆積物起源のCH_4ガスの^<14>C年代は約1万年前であり,湖の拡大期と一致している。 湖は水温構造から見て熱帯湖であり,表水層の深度は60〜90mで,この下面で,22.8℃〜22.9℃まで低下した水温はこれ以深では,湖底までゆるやかに上昇し,450m水深で,26.0℃を示している。なお,表水層下の深水層水温は経年的変動は認められず,極めて安定したメロミクテック傾向を示している。湖の水質はC1^<-1>が30〜68ppmで、SO_4^<-2>は2〜10ppmと低濃度であるが,Alkalinity(CaCO_3)やHardness(K+Na)が深水層で著しく高濃度となる。例えば,Alkalinityは,表層水630ppmから,底層水で3,200ppmと著しく増加する。流入河川では,北方の溶岩帯から流入する河川水の593ppmを除いて,すべて53ppm以下の低濃度であることからみて,湖底より火山活動に伴って供給された塩類である。さらに,同湖底から二酸化炭素(CO_2)とメタン(CH_4)ガスが供給されている。ただ,両ガスともに,深水層の水圧下では不飽和状態にあり,溶解度は30%を越えない。なお,常圧下では2.19リットルの試水から4.05リットルの混合ガスが発泡した。混合ガスの存在比は,CO_2が74%,CH_4が18%を占める。
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表水層下面から湖底へと水温が上昇しているにもかかわらず,湖底から供給される塩類およびガスにより,安定した密度成層状態を保特している。一方,タンガニーカ湖では,約2,000mに及ぶ厚い湖底堆積物に遮えぎられて湖底からの塩類供給およびガス発生は全く認められない。したがって,水温のメロミステック傾向は皆無である。ただ,堆積物の薄い水深約20m迄の湖岸帯にのみ塩類供給とガス発生が認められた。 キブ湖流域の年降雨量は1.500mm,年湖面蒸発量(E_0)1,500mmで,ルジジ川水力発電所の記録から求めた年河川流出量は湖水位に換算して,1,712mmに相当する。流域水収支の結果,カサバ,キニーネ,コーヒーの權木畠やバナナ畠により大部分人工改変された流域の年蒸発散量(Eg)は675mmで,α=Eg/E_0=0.45であった。若し,7万年〜1万年B.P.の最終氷期の期間,キブ湖が300mの水位低下したとすると,湖面積が1,028km^2に縮小した閉塞湖となる。なお、現代における森林流域の人工改変を考慮し,この寡雨傾向の時代にも,α=0.45を用いることにする。また、E_0=1,500mmとした湖の水収支で,最終氷期の年降雨量は現在の約半分の790mmが求められた。 一方,キブ湖からルジジ川で流入するタンガニーカ湖は南緯6度,東経30度を中心に,ほぼ,南北に延びるリフト湖である。同湖の最大水深は1,470m,平均水深572mの深湖で,湖を含む流域面積は238,700km^2,湖面積は32,000km^2で,年降雨量660mmで貿易風気候帯に属している。タンガニーカ湖の流出河川はルクガ川でザイール川の支川である。ルクガ川は同流の中央部からリフト壁を約60m開析し,西方に流出している。現在,ルクガ川流出量の測定値は無い。然し,今回,現地において,1845年から1985年迄の貴重な湖水位記録を入手した。本記録によれば,1837年に発生した大地辷りによりルクガ川は塞止められた。この閉塞状態は40年間にわたり,10mの湖水位上昇後に解消された。これにより,40年平均のルクガ川流出流量を見積ることが出来る。タンガニーカ湖の水収支結果から,現在の年流域蒸発散量はキブ流域より少なく,510mmとなり,α値は0.34である。この値を用いて,キブ湖からの流入の無い,最終氷期にタンガニーカ湖が閉塞状態にあった時の年降水量を見積もると,現在のわずか2%減に過ぎないことが明らかとなった。アフリカ大陸の北部,サハラ砂漠の発散場が弱化した最終氷期には,東アフリカでは貿易風気候帯は,やや,北方に張り出し,キブ湖,タンガニーカ湖は閉塞湖となった可能性が極めて強い。 隠す
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