研究分担者 |
ギーゼラ ストルツ 米国, 国立衛生研究所 細胞生物学代謝部門, 主任研究員
スタン コルスマイヤー 米国, ワシントン大学 分子生物学, 教授
パトリック A バウエル ドイツ, ルードヴィヒ マクシミリアン大学 分子生物学, 教授
アーネ ホルムグレン スウェーデン, カロリンスカ研究所 生化学, 教授
トーマス トウルツ フランス, ギュスタブー ルシー研究所 内科学, 教授
堀 利行 京都大学, ウイルス研究所(生体応答学 感染防御), 助手 (70243102)
PATUICK A. Baenerle professor Ludwig-Maximilians University, FRG
THOMAS Tursg professor, Institute Gustave Roussy, France
STANLEY Korsmyer professor Washington University
GISELA Storg senior investigator National Institute for Health, USA
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研究概要 |
緒言 酸化還元機構を介した制御機構(redox regulation),特に転写制御因子調節機構の解析は最近急速に展開を見せている分野である。本研究は,ADF/thioredoxinをはじめとした細胞内でのredox regulationに重要な役割を果たしている蛋白に関する研究,また,oxido-reductionを介した制御機構研究について調査研究し,多方面の分担研究者との交流を基礎にこの分野での今後国際学術協力を進めことを主な目的とする。 1.redox調節蛋白に関する研究の調査 (1)大腸菌の還元補酵素thioredoxin(TRX)はカロリンスカ研究所Arne Holmgren教授により研究が進められてきた物質であり,その活性中心に存在する二つのCys-SH残基を介した強い還元活性により種々の生物学的活性を示す。この間,その活性部位の詳細な解析を継続している。研究代表者らもこれまでにTRXのヒトホモローグであるADF/TRXの研究を進めてきたが,細胞内蛋白に対するPDI活性,活性酸素除去に必要とされるcatalase活性を持つことを明かにした。また,過酸化水素,紫外線等の酸化ストレスによってADF/TRXの発現が増強することを明らかにした。 (2)ADFはHTLV-1感染細胞のみならず,EBVやHPVによりトランスフォームした細胞や組織にも強い発現が認められ,ADF/TRXのウイルス発癌への関与がThomas Tursz教授との交流により明かとなった。さらに,ADF/TRXの発現制御機構の検討を行う目的で,ADF/TRX遺伝子上流域の解析を行っている。AP-1 binding siteとHeatshock element(HSE)が存在することが明らかになった。 (3)この間,1)Turszらの報告した3B6-IL-1,2)B-CLL増殖・分化誘導因子(BSF-MP6),3)好酸球細胞障害増強因(ECEF),4)マクロファージ表面因子(SASP),5)IFNgの細胞内情報伝達に関連した因子,6)妊娠初期に分泌される因子(EPF)等がいずれもADF/TRXと同一物質であることが報告されてADF/TRX機能の多面性が示されている。 2.redox調節機構に関する研究の調査 1)Richard Klausnerは酸化還元機構を介した制御機構(redoxi regulation)を提唱したが,この間,我々を含めた幾つかの研究によりJun/Fos(AP-1).NF-kBによる転写調節活性にCys-SH基を介するredox 調節の関与が示されている。AP-1に関してはT.Curranらの解析により,ADF/TRXがref-1蛋白を介してAP-1内Cysを還元することによりAP-1を活性化することが明かとなっている。一方NF-kBについてはIL-2R/p55あるいはHIVのkBmotifを介した転写がADF/TRXにより亢進することが明かとなっている(淀井,岡本,新井)。 (2)その後,Patric Bauerleらは過酸化水素によるNF-kBの活性化を,また,Giezera Storzは酸化ストレスに反応する転写因子を報告している。これらの研究者との交流により,研究代表者らは,チロシン燐酸化とredoxとの関係について解析を行った。細胞に酸化剤を添加した結果約55kDaの蛋白(srcファミリーのチロシンキナーゼのLck)を中心とする幾つかの細胞内蛋白の顕著なチロシン燐酸化が起こることが観察された。 3.疾患におけるredox調節機構とのその異常 AIDSの病態にNAC等のチオール化合物の重要性が報告されている(淀井,Droge,Herzenbergら)。研究代表者らは細胞外のチオール化合物はシスチンの輸送システムを介して細胞内の酸化還元状態を調節していることを示した。このことによりAIDSにおける異常の解析と新たな治療法につながる可能性を示している。 結語 転写調節活性にCys-SH基を介する酸化還元機構を介した制御機構(redox regulation)の関与が示されている。さらに,酸化ストレスによる刺激には,蛋白燐酸化を介したシグナル伝達機構が存在することが示唆された。今後,このような生体内酸化還元反応を介したシグナル伝達機構の詳細を解明することは極めて重要であると思われる。
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