研究概要 |
1992年7〜8月の夏季雷活動の最も活発時に,フロリダ州オーランド市オーランドにおいて雷活動の総合観測を行った。即ち日本側に付いては,大阪大学が,大阪大学が開発した長時間メモリ付き(最大524ミリ秒記録可能)の広帯域スローアンテナによる,雷放電に伴う電界変化の二地点観測を,岐阜大学が,雷放電のビデオ撮影と雷放電路経方向の高空間分解発光強度時間変化及び,多地点落雷の高時間分解能測定機による,時間間隔測定を担当した。一方アメリカ側は,海洋気象局雷嵐研究所が,LLPネットワーク観測によるリアルタイム雷警報を提供すると共に,高速度全方位カメラ(1秒1000コマ)による放電路のビデオ撮影及び雷放電に伴うUHF放射及びレーダ観測を,ニューメキシコ大学が,大阪大学と同機能機による電界変化観測とVHFは帯電磁波を利用した放電路可視化システムによる雲内放路観測を担当した。 雷放電現象は過渡的な現象であるため,その継続時間は高々数百ミリ秒程度であり,従って上記各種測定機の時間同期が一番の問題点であった。一般的には,高精度の時間標準を用意するべきであるが,本プロジェクトでは,電光信号で各種システムをトリガすることにより,昨年同様この問題を解決した。実際大阪大学は,広帯域スローアンテナを,オーランド空港周辺に2.5kmの間隔をおいて二台設置し,観測期間中に得られた数例のデータで時間同期の確かさを,確認している。 ところで上記観測期間中,8月初旬になってほとんど連日のように雷が発生し,合計8月10日までの間に8日の雷日数を記録した。従って電磁界波形,放電路の径方向変化に関する光学データ,多地点同時雷撃に関する光学データが多く観測され,これらはアメリカ側のデータと比較しつつ現在解析中である。またアメリカ側が担当した,高速度全方位カメラは,イメージインテンシファイアーが装備されており,雲内もしくは雲下を伝搬するリーダの進展やリコイルストリーマが多く撮影されており,大阪大学の観測した広帯域スローアンテナによる電界変化波形との比較,及びニュメキシコ大の雲内放電路像との比較を行うことにより,本研究の目的の一つである,放電開始機構の解明に役立つものと考えられる。また前述の放電路経路方向の発光強度時間変化に関するデータも,リーダ進展時から帰還雷撃時に至る全放電過程に関し数多く得られているが,この種の観測結果は世界で初めての成果であり,これらの成果は雷放電開始機構の解明の糸口になるものであると考えられる。 更に予期していた以上の成果と成りつつあるのが,多地点同時雷撃に関するデータである。多地点同時雷は国内では冬季雷(筆者らの研究では北陸)にしばしば見られ,夏気雷に関しては比率そのものが低いため,計画当初条件さえ整えばと云った程度の期待であったが,今回の観測では数十例の多地点同時雷撃が記録されている。北陸の冬季雷では,この多地点同時雷撃が送電系統の多相事故につながるものと考えられており,本研究でその機構が解明されれば,防護対策の一助となるものと確信される。全ての取得されたデータに関し,現在各研究機関はその解析中であり,放電開始機構の理解に供される予定である。 なお本研究の申請当時計画に組み入れられていなかったレーダ網による雷雲の総合観測も,マサシューセッツ工科大学の協力で実施され,雷活動とマイクロバーストの関係についても,アメリカ側研究者を中心に進められている。従って当初日本側とアメリカ商務省海洋気象局雷嵐研究所のプロジェクトとして始まった本研究は,2年度には日米各複数個の研究期間の共同研究となり研究の成果以上に,日米協力関係による雷雲の総合観測として開花した事を付記しておく。
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