研究課題
国際学術研究
調査の目的:本調査研究は、独立後懸命な社会・経済発展への努力を続けながらも、発展途上国の域を脱することが困難なインドの国民経済の停滞の実体と課題をその背景と要因を合わせて村落レベルで検証しようとするものである。その際、中央・州・県など上位レベルでの経済・社会開発計画をふまえ、それらを受け入れた農村地域において、農業をはじめ生活改善の諸事業など地域社会・経済の諸開発がどのように実施され、その結果としてどのような変容を見たかを明らかにするとともに、村落・家族・個人が各々の属性や特性に応じて、諸政策や変化に対して、どう選択し対応したかを調査・分析する。なお、都市域については、伝統的インド社会の変化の一段階と位置づけ、その生活意識や様式に関して調査し、農村との比較・検討資料とする。対象地域と調査方法:本年度は、過去のウッタル・プラデシュ州、西ベンガル州の調査をふまえて、南インドのカルナ-タカ州マンディア県下のチッカマラリとゴ-ダハリの2村と、マイソ-ル市の新興住宅地ガンゴトリ・ヴィヴァカナダナガ-ルの2地区を調査研究対象地域とした。チッカマラリ村は、マイソ-ル市の北方約35Km、コ-ベリ-川の灌漑用水の恩恵を受ける村で、1978年の調査資料をもとに追跡調査を行った。近代灌漑の普及という点で、ゴ-ダハリ村は、チッカマラリ村と比較のため今次調査で初めて選定した村であり、マイソ-ル市の北東約30Kmの国道沿いに位置する。村の調査は、調査計画に従って、各項目にわたり、悉皆によって実施した。なお、一部項目は、サンプル調査によって補った。一方、都市調査の2地区は、マイソ-ル市街地の南西部の低湿地に新たに開発されたところで、経済的なレベルによって3つのタイプに分けられた住宅から抽出調査を行った。調査の結果:調査結果を調査項目に沿って示す。ただし、悉皆調査の結果は、目下データ処理中であり、ここでは概要に留める。(村落)南インドの高原上は、気温と日照に恵まれており、水が得られれば、農業発展のための自然的条件が揃うことになる。その意味で、灌漑施設の整備は、農村振興のキ-であり、本調査でも、前回にひき続き、その点を基本とした。チッカマラリ村は、前回調査時点で灌漑水路がひかれていたが、その後の15年間で、農業のみならず、村落の生活全般に大きな変化が及んできていた。農業は、灌漑耕地が中心で、非灌漑の … もっと見る 畑作農業は、その役割を著しく小さくしてきた。灌漑農地では、稲とさとうきびの輪作体系が確立され、多肥料投下による高生産性農業が出現した。また、一部には、養蚕の導入による多角化も試みられてきた。こうした、農業の商業的色彩の強化は、営農規模の拡大を志向させ、一方では、在村農業労働力の需要にも影響を及ぼすことになった。すなわち、農工カーストのゴ-ダを中心に、自作農は、核家族化を抑えて自家労働力を蓄え、農業労働者を雇って、農業経営者への道を志向し始めた。一方、集落の背後に開かれ政府支給住宅を中心に居住する農業労働者は、旧来の昔の村の雇用慣行から脱して、賃金契約による新しい補完関係に組み替えられてきた。ただ、こうした農業を中心にした近代化の波は、衣食や子弟の教育などの面には、未だ及ばず、農村振興の手段と波及の実証に課題を残した。次に、ゴ-ダハリ村は、丘陵性の斜面にのる新しい村落で、低いところに一部灌漑水路が通るが、大部分は、草地と畑である。村社会は、単一ジャーティ、ゴ-ダ(農耕カースト:ボッカリガ)によって構成される。そうした理由から経済的にも、比較的均一であるが、村のまとまりという点では必ずしも良好とは言えず、多カーストの織りなす中での調和というインドの伝統的農村社会との対比の例を見た。この村の農業は、畑作と養蚕であり、昨今の繭価の下落時には、草地で放牧する羊・山羊がこれを補う。灌漑の限界地域にあるこの村では、可能な限りの取水努力が行われる。これは、高原乏水地域で行われてきた旧来の畑作から、新たに普及しはじめた灌漑水田農業への移行への努力であり、農業振興の基本的側面である。かくて、この村では、やがて同一カーストの中に灌漑-非灌漑農家という経済的分化がおこり、さらに、雇用-被雇用という社会的分化へ進むことが予想されるインドの農村振興の進む一つの道である。(都市)マイソ-ル市の2つの地区の調査から、経済的レベルの如何を問わず、生活水準の農村との著しい違いが指摘できた。また、村の農業や財産について、必ずしも執着しないという面も認められた。都市化の普及してきたインドで都市に住みながらも、片足を農村へ置くという従来型の生活意識が変わってきたことを示している。3ケ年の成果;1991-93年にわたる本調査研究において、インドにおける農村地域開発の過程、成果および課題を、人的資質とのかかわり中で検証しようという当初計画に沿って、インドの3州にわたり、6つの農業村落について、ミクロなデータの収集を完了した。人口、世帯の動態、農業における近代化とそれへの人々の対応、灌漑などインフラの整備、村の商工業の動向、村落社会の諸構成や活動、衣食住にわたる人々の生活様式とその変化、家族計画や子弟の教育などにも目を配った。これらの調査結果は、広島大学総合地誌資料センターの「地誌研年報」no.3に1991年度分を、no.4(印刷中)に1992年度分を報告した。また、1994年日本地理学会春期大会で口頭発表する。1995年には、インドで、両国の調査担当者を中心に、研究集会を予定している。 隠す
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