ソロモン諸島のマラリア疫学と駆除の研究

1993 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 03041080
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 富山国際大学
• 研究代表者: 佐々 学 富山国際大学, 学長 (90090480)
• 研究分担者: 内田 ゆり ジュリエッタ 自治医科大学, 医学部, 助手 (40254908) ; NATHAN Kere ソロモン諸島国, 厚生省, 次官 ; 大前 比呂思 国立国際医療センター, 国際医療協力局, 医療協力派遣員 ; 水島 豊 富山医科薬科大学, 医学部, 助手 (20174021) ; 原田 正和 香川医科大学, 医学部, 助手 (90127580) ; 平林 公男 山梨県立女子短期大学, 助教授 (20222250) ; 村主 節雄 香川医科大学, 医学部, 助教授 (00032897) ; 鈴木 博 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助手 (00012758) ; 栗原 毅 帝京大学, 医学部, 教授 (40082101) ; 朝日 博子 国立予防衛生研究所, 寄生動物部, 主任研究官 (90231109) ; 川本 文彦 名古屋大学, 医学部, 講師 (40115556) ; 川端 眞人 神戸大学, 医学部附属医学研究国際交流センター, 教授 (30175294) ; 加藤 弘巳 済生会高岡病院, 副院長 (40111744) ; 綿矢 有佑 岡山大学, 薬学部, 助教授 (90127598) ; 亀井 喜世子 帝京大学, 医学部, 助教授 (40101703) ; 石井 明 国立予防衛生研究所, 寄生動物部, 部長 (40012752)
• 研究期間 (年度): 1991 – 1993
• キーワード: マラリア / ソロモン諸島 / ハマダラカ / 血液検査 / DNA診断 / 超音波診断 / G6PD欠損 / PCR

研究概要

1993年度には、延べ13名がソロモン諸島国に出張して調査研究を実施した。又1名をソロモン諸島国から招致して日本各地の研究施設において研究者と交流した。
マラリア疫学研究には、ガダルカナル島東北の海岸側の村落を選定し、血液検査、抗体検査、脾腫検査を実施した。血液塗抹標本を作製し、Giemsa染色のみならず、開発・改良したアクリジン・オレンジを用いる蛍光染色法を導入し応用した。開発製造された専用のハロゲン光源、干渉フィルター装着光学顕微鏡も使用した。抗体検査は培養した熱帯熱マラリアから調製した抗原を用いる酵素抗体法(ELISA)により行った。脾腫検査は従来からの触診法と共に携帯用超音波診断器を用いて脾腫の大きさを測定した。村落住民の血液中のマラリア原虫陽性率(P.R.=parasite rate)は40-60%と高く、抗体保有率は53-74%であり、脾腫率(S.R.=spleen rate)は40-80%と高く、マラリア伝播流行が非常に高い水準(holoendemic)で、ほぼ誰もがマラリアに感染する状態にあることが判明した。
駆除の試みとして抗マラリア剤を投与する方法を行った。クロロキンを投与する村落(B)、クロロキンにプリマキンを加えて投与する村落(A)とAに加えて殺虫剤(permethrin)を浸漬した蚊帳を配布する村落(C)を設定した。半年毎に血液検査、投薬を行ったが、Bで半年後、P.R.は45%から55%になり、更に40%と変動した。S.R.ではAで80%から65%に、Bで40%から50%に変動した。CではP.R.が40%から半年後30%に低下した。Primary Health Care活動に村落間の差があり、判定は容易でないが、数学モデル(MDTモデル)による疫学分析をコンピューターシュミレーションで行ってみると、媒介蚊のマラリア伝播能がかなり高いと予測して(Vectorial capacityを7)投薬した結果と一致していた。
殺虫剤(Vectron)を屋内残留噴霧する村落と、蚊帳に浸漬して配布した村落について対照と比較したところ、P.R.では当初の50%前後から、蚊帳村落でその後29-42%になり、やや効果をみたものの、残留噴霧村落では41-60%であり、対照村落での45-56%と比べ顕著な効果はみられていない。抗体保有率は当初の62-78%から、その後の経過は蚊帳村落で29-55%、残留噴霧村落で53-75%、対照村落で59-92%になった。この地区での蚊についてスポロゾイトに対する抗体を用いてELISA陽性率をみると、当初は数%と高い値が得られたが、その後は蚊数が不十分となったため経過が追えていない。
疫学調査の中で行ったその他の検査ではHb値12g/dl以下の者が50%以上で、血糖値は平均84mg/dlであった。
ソマトメジンC(Insulin like growth factor 1)は全年齢を通じて低値であり、身長、体重測定値と合わせ、栄養上の問題がみられた。赤血球の酵素(G6PD)欠損をFujii法で検査した処、住民の6-11%に欠損を検出した。特殊血液型Duffy,Gerhichについては陰性者を検出しなかった。HBs抗原は30%近い高い陽性率を検出したが、HCV抗体は陽性者は少数であった。
媒介蚊Anopheles farautiについては、その室内飼育の試み、人吸血習性の有無の確認、人吸血か否かをPCR法によって検出する試みを行った。ヒトに特有のDNA配列を利用して、他の動物の血液を区別する方法としては、チンパンジー以外を判別できる。
ソロモン諸島国の医学研究所所員Mr.Bilson Taiku Kaiasiが1993年9月に来日し、各施設を訪問し、情報交換、研修を行った。
1994年1月にはソロモン政府、厚生次官N.Kere博士と、今迄の研究班の調査研究について最終の報告、討論の場を持ち、ソロモン諸島国におけるマラリアの現状分析と将来のマラリア対策について意見交換を行った。今後の研究の進め方についても討論した。この席には保健省医官、研究所員も参加した。

研究成果

• [文献書誌] 石井 明: "ソロモン諸島のマラリアの疫学と対策について" 熱帯. 26. 195-207 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 石井 明 他: "『ソロモン諸島のマラリア』に関する文献集" 熱帯. 27. 44-52 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 石井 明 他: "ソロモン諸島国ガダルカナル島村落におけるマラリアの疫学と治療対策" 日本熱帯医学会誌. 21増. 13 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Wataya,Y.et al.: "DNA diagnosis of falciparum malaria using a double PCR technique a field trial in the Solomon Islands" Mol.Biochem.Parasitol.58. 165-168 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Arai,M.et al.: "Delection of Plasmodium falciparum in human blood by the nested polymerase chain reaction" Amer.J Trop.Med.Hyg.(in preparation).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Arai,M.et al.: "A new colourimetric DNA diagnostic method for malaria,a field trial in the Solomon Islands" (i preparation).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Arai,M.et al.: "DNA Diagnosis of Ovale malaria and Malariae malaria using Microtitar Plate-hubridigation" Nucleosides and Nucleotides. (印刷中).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Mizushima,Y.et al.: "Lower serum levelo of Insulin-like growth Factor-1(IGF-1)in residents of malarie-endemic country,Slomon Islands." (submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 新井 明治 他: "ソロモン諸島国におけるマラリアのDNA診断" 日本熱帯医学会誌. 21増. 13 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 亀井 喜世子 他: "ソロモン諸島における薬剤浸漬蚊帳と残留噴霧によるマラリアコントロールの効果" 寄生虫誌. (発表予定). (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 加藤 弘巳 他: "ソロモン諸島国・ガダルカナル島におけるマラリア疫学.栄養学的観点からの検討" 日本熱帯医学会誌. 21増. 13 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 鈴木 博 他: "大型クリークでのI.G.R.によるマラリア媒介蚊An.farautiの駆除実験" 衛生動物. 44増. 156 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 鈴木 博 他: "ソロモン諸島のマラリアの疫学と駆除,人吸血性及び非吸血性An.farautiの存在" 衛生動物. 45(予定). (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 鈴木 博 他: "ソロモン諸島のマラリアの疫学と駆除,An.farautiの抱卵蚊の再吸血について" 衛生動物. 45(予定). (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 新井 明治 他: "マラリアのDNA診断" 検査と技術. 21. 1122-1124 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ishii,A.et al.: "glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency in Solomon Islands." (in preperation).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Wataya,Y. et al.: "DNA diagnosis of falciparum malaria using a double PCR technique : a field trial in the Solomon Islands." Mol. Biochem. Parasitology. 58. 165-168 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Arai,M. et al.: "Detection of Plasmodium falciprum in human blood by the nested polymerase chain reaction." Amer.J.Trop.Med.Hyg.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Arai,M. et al.: "A new colorimetric DNA diagnostic method for malaria ; a field trial in the Solomon Islands." (in preparation).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Arai,M. et al.: "DNA diagnosis of ovale malaria and malariae malaria using microtiter Plate-hybridization Nucleosides and Nucleotides." (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Mizushima,Y. et al.: "Lower serum levels of Insulin-like Growth Factor-1(IGF-1) in residents of malaria endemic country, Solomon Islands." (Submitted).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ishii,A. et al.: "Glucose-6-phosphate dehydrogenize deficiency in Solomon Islands." (in preparation).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より