研究課題
国際学術研究
本年度は3年間にわたる本研究『アジア諸国の経済発展パターンとわが国の経済協力に関する理論的・実証的研究』の最終年度にあたり、研究全体としても、また個々の研究分担テーマとしても、これまでの実態調査・研究成果を基礎としながら研究の総括を行なうことを中心に研究が進められた。本研究の主要なテーマはアジア諸国の経済発展パターンの解明にあるが、その分析視点は様々な観点から提示された。第1に、アジア諸国の経済発展を地域間の固有性や経済協力のあり方から見ようとする視点である。世界的にもECやNAFTAなど地域内自由貿易圏構想が着実に実現に向かう中で、アジアにおいても華南経済圏、AFTA,EAECなどアジア地域を核とした経済協力がにわかに注目を集めている。本研究ではこうした動きを踏まえ、アジア地域における自由貿易圏や経済協力のあり方を探り、その中でアジア諸国の経済発展の可能性を展望することができた。第2に技術移転の問題があげられる。発展途上国が工業化を進めていくには、先進工業諸国からの技術移転が不可欠であることは言うまでもない。しかし、それを具体的にどのように進めていくかとなれば、それは必ずしも容易ではない。本研究ではこうした視点から韓国、タイ、インドネシア、インドシナ諸国などによって技術移転について実態調査を行ない、その現況と問題点を明らかにすることができた。より具体的には、自動車、家電、造船などの製造業について、アジア諸国における技術移転の状況が明らかにされた。これらの実態調査の結果、技術移転を円滑に進めていくためには、その国の教育の充実、サポ-ティング・インダストリーの育成、インフラ整備、適切な産業政策などが不可欠であり、経済システムとしてのバランスのとれた発展がなければ、技術移転も経済発展も遅々として進まないことが明らかにされた。また日本の明治期の経験も含めて、アジア諸国の経済発展・技術移転の国際比較も行なわれた。第3としては、技術移転との関わりの中で、海外直接投資を主体とした経済協力が、アジア諸国の経済発展に及ぼす効果について分析を試みた。特に日本からの直接投資はアジア諸国の経済発展に大きな意味を持っており、タイ、マレーシア、インドネシア、スリランカなどの諸国をケース・スタディーとして、日本からの直接投資の実体と、それが経済発展に及ぼす効果が明らかにされた。その過程で生じる文化的摩擦や環境面に及ぼす問題点も明らかにされた。また海外直接投資の効果の国際比較という視点からは、国際産業連関表を用いることにより、タイおよびインドネシアに対する日本の直接投資の効果を実証的に示すことができた。今後の日本の経済協力という意味では、ベトナム、カンボジアなどのインドシナ諸国に対する支援なども大きな課題となっているが、本研究ではその可能性と経済協力のあり方についても具体的に提示することができた。第4に、理論的研究成果として、発展途上国の経済発展と社会資本との関わりについて独自の分析視点から、その問題点を浮き彫りにすることができた。経済発展プロセスにおいて、資本形成の果たす役割が重要なことは言うまでもないが、それは民間資本ばかりでなく、産業用・生活関連社会資本も含めた資本形成が求められているのである。本研究においても、こうした観点から工業化を目指すアジア諸国にとって、どのような社会資本の形成が最も望ましいのか、という問いかけに答えることが大きな課題であった。そうした中で、(1)発展途上国における社会資本の形成は必ずしも国内の資本や地域経済にとって十分な効果をもたらしてはいない、(2)途上国の対外債務の増大という形で社会資本の形成が行なわれたため、二重の意味で誤った社会資本形成が行なわれている、ということが明らかにされた。
すべて その他
すべて 文献書誌 (46件)