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1993 年度 研究成果報告書概要

トルコ・シリアの環境変遷史と文明の盛衰

研究課題

研究課題/領域番号 03041092
研究種目

国際学術研究

配分区分補助金
応募区分学術調査
研究機関国際日本文化研究センター

研究代表者

安田 喜憲  国際日本文化研究センター, 研究部, 助教授 (50093828)

研究分担者 YAINTUS Ahme  エーゲ大学, 理学部(トルコ), 助教授
北川 浩之  国際日本文化研究センター, 研究部, 助手 (00234245)
高橋 学  立命館大学, 文学部, 助教授 (80236322)
井上 克弘  岩手大学, 農学部, 教授 (30035109)
鹿島 薫  九州大学, 教養部, 助教授 (90192533)
三田村 諸佐武  大阪教育大学, 助教授 (50030458)
田端 英雄  京都大学, 生態研センター, 助教授 (20025373)
西村 弥亜  愛知学院大学, 教養部, 教授 (70167568)
成瀬 敏郎  兵庫教育大学, 教授 (60033510)
山折 哲雄  国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (40102686)
研究期間 (年度) 1991 – 1993
キーワードトルコ・シリア / 気候変動 / 花粉分析 / 年代測定 / レバノンスギ / 森林破壊 / ノアの大洪水 / 文明の盛衰
研究概要

平成2年度・3年度にトルコ・シリアの各地から採取した堆積物の花粉分析・珪藻分析・同位体地球化学的分析・年代測定・火山灰分析・ダスト分析などを実施した。その結果、トルコ・シリアの環境変遷史と文明の盛衰について、以下のような新たな事実の発見があった。
1)シリアからトルコにかけて、氷河時代には広大なアカザやヨモギの大草原が展開していた。
2)コンヤ盆地の堆積物の分析から過去50万年間に氷期・間氷期の寒暖のくりかえしが5回存在することが明かとなった。
3)氷期にはトルコ・シリアの各地の湖の水位は上昇し、最終氷期最盛期の25000-20000年前のトウ-ズ湖などの湖の水位は現在より20m前後高位にあったことが明かとなった。
4)初期の麦作農耕はこうした大草原の中で誕生した。
5)シリアのガ-ブバレイの各種分析の結果、1万年前よりナラとレバノンスギの森が拡大することが明かとなった。気候は温暖・湿潤化した。こうした後氷期にはいいてからの森の拡大にともない堆積物中の有機炭素量・窒素量が急増することが、トルコのケステル湖の堆積物の分析の結果明かとなった。
6)しかしこの森は8000年前よりオリーブ栽培の開始とともに破壊された。オリーブ栽培はこれまで5000年前とみなされていたが、今回の分析結果によって8000年前までさかのぼることが明かとなった。
7)5000年前、シリアからアナトリア高原にかけて大規模な気候変動があったことが明かとなった。気候の寒冷・湿潤化によって湿原が拡大し、トウ-ズ湖の地形環境の分析では水位が一気に20m近く上昇したことが明かとなった。この5000年前の気候の寒冷・湿潤化がノアの大洪水の原因だった。
8)珪藻分析の結果、現在では塩湖のトウ-ズも、5000年前には淡水湖であり、このため湖岸に多くの遺跡が営まれたことが明かとなった。
9)5000年前にすでにシリア北西部のアスサリエ山脈周辺のレバノンスギはほとんど破壊され尽くしていた。5000年前にほぼ現在に近い荒廃景観が出現していたことは驚きであった。こうした森林の破壊が淡水湖を塩湖に変える一つの要因だった。
10)シリアのエルル-ジュ湿原の堆積物の分析の結果、3200年前、再びトルコ・シリアでは大規模な気候変動に見舞われたことが明かとなった。この気候の寒冷・湿潤化によってヒッタイト帝国が崩壊し、大規模な民族移動が引き起こされた。
11)こうした古代オリエント世界の崩壊の背景には森の消滅にともなって土壌の劣化が深くかかわっていることも明かとなった。荒廃地に生育するキク科のケンタウレア属の増加がこうした土壌劣化の指標であった。地中海地域に発展するオリーブ栽培の進展の背景には実は土壌の劣化があったのである。痩せた土壌ではオリーブぐらいしか栽培できなかったのである。
12)3200年前の気候変動は北緯35度以南では乾燥化をもたらし、大地の多神教的な宗教にかわって一神教の誕生をもたらすきっかけとなった。
13)トルコ西部の大メンデレス川の下流域の調査分析の結果、ミレトスやプリエネなどの古代都市の港が位置するところが内湾ではなく旧河道にあたっていることが明かとなり、港の崩壊が内湾の埋積による海岸線の前進のみでなく、洪水の多発による河道の移動によっても引き起こされたことが明かとなった。こうした港の機能の麻痺が古代地中海文明崩壊の一つの要因だった。
14)古代地中海世界においては、蛇信仰など多神教の信仰が盛んであった。古代の神殿のそばには聖なる森があった。こうした森の存在が多神教の信仰を堅持させる一つの要因だった。1世紀以降、古代地中海世界にキリスト教が浸透する背景には、多神教を支えた森が消滅していったことが深く関わっていることが指摘できた。
15)以上のようにトルコ・シリアの文明の盛衰には気候変動や地形環境の変動・土壌の劣化などが大きな影響を与えていることが明かとなった。同時にレバノンスギの破壊を始めとして、文明の発展がいかに激しく自然を破壊してきたかについても明かにできた。こうした成果は英文の報告書として近く刊行される(印刷中)。

  • 研究成果

    (24件)

すべて その他

すべて 文献書誌 (24件)

  • [文献書誌] 成瀬敏郎: "カマン・カレホユックの地形環境(1)" アナトリア考古学研究. III. 55-66 (1994)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 高橋学: "エ-ゲ海沿岸における臨海平野の地形環境" 立命館地理学. 6. 1-20 (1994)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 鹿島薫: "Living Diatoms of Inland Lakes in the Central Part of Turkey" 九州大学教養部地学研究報告. 30. 1-28 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 北川浩之: "A batch preparation method of graphite targets with low back-ground for AMS^<14>C measurements" Radiocarbon. 35. 295-300 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "気候変動と民族移動" 埴原和郎編『日本人と日本文化の形成』(朝倉書店). 231-257 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "オリーブ栽培の起源と発展" 佐々木高明編『農耕の技術と文化』(集英社). 503-528 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "蛇と十字架" 人文書院, 284 (1994)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "森と文明" 日本放送出版協会, 164 (1994)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "気候が文明を変える" 岩波書店, 116 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "森の文明・循環の思想" 講談社, 244 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "草原の思想・森の哲学" 講談社, 251 (1993)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] 安田喜憲: "日本文化の風土" 朝倉書店, 206 (1992)

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      「研究成果報告書概要(和文)」より
  • [文献書誌] NARUSE Toshiro: "Geomorphological environment of Kalehoyuk, Kaman(1)" Kaman-Kalehoyuk. 3. 55-66 (1994)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] TAKAHASHI Manabu: "Geo-environment in recent alluvial plains of the Aegean Region" The Jour. Ritsumeikan Geographical Society. 6. 1-20 (1994)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] KASHIMA Kaoru: "Living diatoms of Inland lakes in the central part of Turkey" Rep. Earth Science, Col. Gen. Education, Kyushu Univ.30. 1-28 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] KITAGAWA Hiroyuki: "A batch preparation method of graphite targets with low background for AMS14C measurements." Radiocarbon. 35. 295-300 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: "Climatic changes and racial migrations" "The formation of the Japanese and Japanese culture" ed. Hanihara, K.Asakura Shoten. 231-257 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: "The origin and development of olive cultivation" "The skill and culture of cultivation" ed. by Sasaki, K.Shueisha. 503-528 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: Jinbunshoin. Snake and Cross, 1-284 (1994)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: NHK Publication. Forest and Civilization, 1-164 (1994)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: Iwanamishoten. Climate and Civilization, 1-116 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: Kodansha. Forest Civilization and circulatory thought, 1-244 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: Kodansha. Grassy thought and Forest philosophy, 1-251 (1993)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より
  • [文献書誌] YASUDA Yoshinori: Asakurashoten. Fudo of the Japanese Culture, 1-206 (1992)

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      「研究成果報告書概要(欧文)」より

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公開日: 1995-02-07  

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