研究課題
国際学術研究
平成5年度の第一の目的は、3年間の研究分担者であるスウェーデンのラルス・モランデル氏およびアメリカのヘンリィ・リランド氏を招へいし、日本における精神遅滞者のサービスの実状の調査を行うとともにこの面での指導的な役割を担っている人との面接、討論により日本の居住施設の特殊的な面を明らかにすること、第二に派遣による訪問調査をアメリカで実施し、あわせて研究分担者の協力を得て調査をスウェーデンで行うことである。その結果以下のような地検を得た。第一の目的については、モランデル氏、リランド氏があわせて9月13日より9月26日まで滞在し、日本の精神遅滞者の居住サービス機関である精神遅滞者入所更生施設、入所授産施設、グループホーム等、および通所施設である作業所を見学し、さらに日本の精神遅滞者のサービス全体の組織団体である日本精神薄弱者愛護協会の県組織である愛知県精神薄弱者愛護協会の主催による学術大会を開催し、モランデル氏、リランド氏、と愛知県精神薄弱者愛護協会会長の鈴木峯保氏、副会長の松下良紀氏を含め、研究代表者の渡辺勧持が総合司会を行い、500名の聴衆と共に「福祉フォーラム'93 地域生活に向けて施設機能はどう変わったか、-スウェーデン、アメリカに学ぶ-」を同時通訳者を介し、9月18日1時より5時まで開催した。これらの見学、討論の経過の中でスウェーデン、アメリカと比較し、日本の精神遅滞者の居住サービスの特殊性として明らかになったことは、以下の通りである。1.歴史的な状況では、欧米が1900年代から進められた入所施設のサービスは、日本では実質的には1960年代から行われている。この時間的な差は、日本の急速な経済成長に伴う社会変動の諸条件および国際的な思潮であったノーマリゼーションに対応して日本の居住施設の規模の大きさを制限し、しかしながら25%もの多くの精神遅滞者を入所施設で処遇しなければならなくなった特殊性を増大させた。2.収容施設から地域へと精神遅滞者を戻すときにスウェーデンでは、地方自治体の行政区分を中心とした精神遅滞者サービスの地区を作りその中で専門家の地区チームをサービスの中心としておいた。アメリカでは、この機能は、民間サービス団体が通所施設、入所施設を運営しているためケースマネージメントの制度を導入し、ケースマネージャーが精神遅滞者個人のニーズの把握とサービスの責任をおって展開している。日本では、今後すぐにもこの面で施策に対応する必要に追われているが、欧米の両者の条件が現実には可能であり、それらの統合的な機能が望まれる。3.専門家を中心としたマンパワーの問題。地域生活を実施するには、居住施設の他に、通所施設や余暇活動、社会活動のサービスが必要である。居住、作業施設は、従来のサービスの展開で実施きる面があるが、後者に関しては、新たな方策が必要である。スウェーデンではこれらの機能を友人的な役割をもつコンタクト・パースンを新たに制度として作成した。アメリカでは他の諸種の専門家の育成と同じ流れで余暇活動の専門家を育成している。第二の目的については、アメリカではオハイオ州およびフランクリン郡を調査対象としており、その調査の一部をあげるとオハイオ州では1965年には、知的障害者の入所者率が州人口比で1965年には.091%であったものが、1988年ですでに.026%に下降し(日本では0.082%)地域生活を行うようになり、フランクリン郡(人口91万人)ではこれらの地域生活展開のためにケースマネージメントやレスパイトサービスが展開され、それぞれ2698人、331人が利用している(1992年)などが見られた。スウェーデンでは、法律が改正され、知的障害者の概念が知的障害がかならずしも発達期に生じなくても知的障害のサービス範囲に含めるという知的障害を従来の診断モデルよりもサービスを主体にした方策が展開されようとしており、入所施設から地域での住まいに移行していく方策も速度を衰えずに行われており、1993年にグループホームで生活している人の数は入所施設にいる人々の数の2.7倍である、入所施設を全廃した県があらわれている。またグループホームの概念もより一人一人の独立を考えた方向に向かっており、それに応じた建物等の配慮もされつつある。
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