研究課題
欧米では肝細胞癌(以下、肝癌と略す)の頻度が低く、その理由として肝癌の前癌病変ともいえる肝硬変の型が、日本を含めたアジアの肝癌多発地域では肝炎後性のものが大部分であるのに対し、欧米ではアルコ-ル性のものが多いためと解釈されていた。したがって欧米では肝癌にあまり大きな関心がはらわれなかったが、本研究の研究分担者のロ-デスらのC型肝炎ウィルス(HCV)との密接な関連性の存在が明らかにされて以来、病因としてのHCVの重要性が欧米でも大きな注目を集めるようになった。このような現況を踏まえ、肝癌発癌機構の地理病理学的差異についてスペイン・バルセロナ地方の肝癌と日本症例の比較検討を行い現在までに以下の結果を得た。1.臨床病理学的事項日本症例は日本側研究員の施設において最近2年間に肝炎ウィルスの検討がされた肝癌外科切除例113例、スペイン症例はバルセロナ大学の最近3年間の50例を対象にした。年令、性についてみると日本症例では、42才から74才に分布、平均60.3才、男女比は98:15(6.5:1)であり、一方、スペイン症例は、24才から78才に分布、平均60.3才、男女比は44:6(7.3:1)であった。平均年令には両者間に有意な差はなかった。飲酒歴では、スペイン症例の大部分が長年にわたるかなりの量のワイン飲酒歴があり、大酒家(エタノ-ル80g/日、10年以上)とみなされるものが32%を占めていた。一方、日本症例では大酒家は9.7%であった。2.病理形態学的事項腫瘍径別に比較すると円胞的、組識学的にも癌自体には両国症例間に特異な差は見られなかったが、合併している肝硬変に大きな差が見られた。肝硬変合併は日本症例113例中95例(84.0%)、その大部分は肝炎後性とみなされる比較的再生続布の大きなmacronodular cirrhosisであった。なお、純粋な型のアルコ-ル性肝硬変はみられず、macronodular cirrhosisにアルコ-ル多飲によると思われる種々の程度のmicronodular patternの重複が7例(7.3%)にみられた。一方、スペイン症例には50例中43例(86%)に肝硬変が合併し、その大部分はアルコ-ル性とみられるmicronodular cirrhosisであり、わずか3例がmixed macroーand micronodular cirrhosisであった。3.血清疫学的事項血清HBsAgは日本症例で29.8%に陽性、スペイン例では4%であり、うちC型肝炎ウイルス(HCV)抗体も陽性であったのはそれぞれ6.1%、2%であった。HCV抗体は日本症例では67例(59.2%)スペイン症例39例(78%)に陽性であった。尚、スペインの16例の大酒家のうちは例(75%)はHCV抗体陽性であった。ーまとめースペイン症例の多くは、アルコ-ルによると思われる肝硬変を合併しているにもかゝわらず、高率にHCV抗体が陽性であり、わが国と同じくC型肝炎ウイルスと肝癌の密接が示唆された。今後、症例の蓄積と共に、両国のHCVの構造的な比較検討、HCVと飲酒との相互関係などの解明をはかりたい。
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