研究分担者 |
ジョルディ ヴィサ バルセロナ大学, 医学部, 教授
ミケル ブルゲラ バルセロナ大学, 医学部, 教授
ホアン ローデス バルセロナ大学, 医学部, 教授
幕内 雅敏 信州大学, 医学部, 教授 (60114641)
沖田 極 山口大学, 医学部, 教授 (70107738)
小林 健一 金沢大学, 医学部, 教授 (70019933)
RODES Joan Professor Liver Unit, Barcelona University, School of Medicine
BURUGERA Michael Professor Liver Unit, Barcelona University, School of Medicine
VISA Jordi Professor Liver Unit, Barcelona University, School of Medicine
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研究概要 |
久留米大学,山口大学,金沢大学における113例の肝癌外科切除例とスペイン,バルセロナ地方における50例の肝癌切除例について臨床病理学的に比較検討を行なった。 〔I 年令・性〕 外科切除例:日本症例は42〜74歳に分布し平均56.7歳,男女比は約6.5:1であるのに対し,スペイン例は24〜73歳に分布,平均60.3歳,男女比は7.3:1であった。 〔II 肝炎ウイルスマーカー〕 HBs抗原は日本症例のうち9例(10.9%)が陽性,スペイン症例2例(4.0%)が陽性であった。一方,C型肝炎(HCV)抗体は日本症例では65例(79.2%)が陽性,スペイン症例では39例(78.0%)が陽性であった。なお,HBs抗原,HCV抗体いずれも陽性であった症例は,日本症例1例(3.6%),スペイン症例1例であった。 〔III 飲酒との関係〕 エタノールに換算して1日80g,10年以上の飲酒歴のある症例は,日本例では17例(15.0%),スペイン症例では17例(34.0%)であった。なお,このうちHCV抗体陽性者は日本13例中10例,スペイン17例中11例(64.7%)といずれも高率にHCVとの関係性が見られた。 〔IV 病理形態学的検討〕 日本およびスペイン症例とも肝癌の形態に関しては明らかな差は見られなかった。しかし,非癌部は大きく異なり日本症例のうち82例(72.5%)は大結節性の肝硬変(乙型肝硬変)を合併し,残りは慢性肝炎の像であり,大酒家とみなされた17例でもアルコールによると思われる小結節性の肝硬変は見られなかった。一方,スペイン症例では36例(72.0%)が肝硬変を合併しており,そのうち20例(55.5%)は大結節性肝硬変(乙型肝硬変)で16例はHCV抗体陽性であった。残り16例(44.4%)は小結節性肝硬変(アルコール性肝硬変)であり,そのうち11例(68.7%)はHCV陽性であった。 〔V 免疫疫学的動向〕 バルセロナにおける肝癌の剖検頻度は1960年代ではわずか0.7%であったが,1980年代には7.8%と増加している。肝癌剖検例について1978年と1990年までの12年間におけるHBs抗原陽性頻度を久留米大学とバルセロナ大学で比較すると,久留米大学症例では29.2%であったものが1990年には12.3%と減少し,また,バルセロナ大学症例では25%であったものが10%と減少している。 【まとめ】 スペイン,日本両国は地理的に遠く離れ,かつ,人種・生活環境とも大きく異なる。厳密な疫学的情報が得られないために肝癌の発生頻度の比較は困難だが,剖検頻度から見るかぎりスペインでも肝癌は増加傾向にある。しかも日本同様,過去10余年間における著しいHBs抗原陽性頻度の低下,現在のHCV抗体の高陽性率などからスペインでも肝癌の増加にHCVの関与が強く示唆される。また,スペインと日本の肝癌の最も大きな違いは背景肝病変の形態であり,肝癌変の合併頻度には差はないものの,スペイン症例では約半数が小結節性肝硬変でその全てに大酒歴がありアルコール性肝硬変とみなされる。一方,日本症例では大酒家でも定型的なアルコール性肝硬変は見られず,合併肝硬変は恐らく肝炎後性と推察される大結節性(乙型)である。しかし,定型的なアルコール性肝硬変の像を示すスペイン症例においても,その64.7%にHCV抗体が陽性であることは興味深い所見である。
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