研究概要 |
本研究では,医用の化学分析システムを小型化してシリコン基板上に集積化することを目的に研究を行なった。 1.無効体積の少ないマイクロバルブの開発 従来報告されているマイクロバルブは,シリコンとガラスを複数重ねた構造を持ち,液の流路も複雑で滞留の起き易い構造を持っていた。また,その製作には,陽極接合や直接接合など高温プロセスが必要で,デリケートな化学センサを集積化することが難かった。そこで,スイスヌーシャテル大学のデゥルーイ教授のグループと共同で,新しいマイクロバルブを開発した。これは,バルブの駆動部分と流路部分を分離して,マイクロマシーニング技術でそれぞれ別のシリコン上に作ったもので,使用時は2つの部品をクリップなどで機械的に固定する。駆動には,積層ピエゾ型アクチュエータを用いる。流路は,シリコン基板上のポリマー膜中に作り,駆動部により,この流路を開閉する単純な構造とした。これにより,前述の滞留の問題を解決し,流路部分を取り替えるのみで何度も使えるようになった。この構造は個々のサンプルについて流路部を使い捨てにできるなど医用システムに適している。また,化学センサの集積化も容易で,生産コストも低減できる。常時開と常時閉の2方弁,3方弁の3種類のマイクロバルブを製作した。これらのバルブの無効体積は,16n1〜32n1と従来のものに比べ極端に少ない。 2.高吐出圧力マイクロポンプの研究 実際,化学分析システムを集積化する場合,その部品となるバルブや反応室,カラムなどの小形化による流路抵抗の増加にともない送液用のマイクロポンプの吐出圧力を大きくする必要である。そこで,ダイアフラム形マイクロポンプの動作について系統的に研究し,高吐出圧力を得るのに必要な要素を検討した。その結果,アクチュエータとしては積層ピエゾ形が十分な圧力を持っていること,高圧力下で十分な流量を得るには一方向弁の逆止特性を改善する必要があることがわかった。このため,デゥルーイ教授のグループと共同で新しい逆止弁を開発したこれは,異方性エッチングによってシリコン基板に形成した台形状の断面をもった穴と,マイクロモールディング技術を使って穴と同じ形状を持つシリコーンゴムのフロートからなる。この構造で,順方向の流れに対する抵抗を少さく保ったまま,逆方向の圧力が加わった場合のリーク量をほぼ零にすることができた。この弁を用いることにより,1atm以上の吐出圧力が実現できる見通しを得た。 3.マイクロサンプルインジェクターの開発 1.で述べたマイクロバルブの製作技術を応用し,化学分析システムに不可欠な部品であるサンプルインジェクターを製作した。これは,3方弁と同様な構造を持っており,駆動部と流路部が分離できる構造を持つ。サンプル液の層がキャリア液の流れと混らないことが重要であるため,流路を滞路の起こらない構造とした。 4.液体用マイクロフローセンサの開発 ISFETなどの化学センサと微小流体制御素子で構成する集積化化学分析システムでは,μ1/minオーダーの流れを精度良くコントロールする必要がある。このためには,このオーダーの流れを検出できるセンサの開発が必要であった。そこで,マイクロマシーニングにより,微小なオリフィスを形成し,そこで生じる圧力を検出するタイプの新しいマイクロフローセンサを開発した。感度を高めるため,オリフィスの周りは2μm,薄いダイヤフラムとし,10μm厚の細い梁で支える構造とした。圧力の検出にはピエゾ抵抗形のセンサを用い,これを最も応力の集中する梁の付け根部分に形成してある。また,ピエゾ抵抗を高いエネルギーイオン注入を用いて約2μmの深さに作り,表面の不安定性の影響を受けない構造とした。この構造により,微小流量を安定に測定できるフローセンサを実現した。 5.医用集積化化学分析システム 以上の研究をもとに,集積化システムの医用計測への応用について検討した。その結果,血液などの粘性の高いサンプルを対象とする場合は,流体制御素子の流路抵抗が問題となることがわかった。このため,システムを医用計測に応用するには,さらに各素子の構造の最適化する必要があるが,本研究で開発した基本構造は,そのまま適用することが可能である。
|