研究概要 |
水圧破砕による地殼応力計測法は,深部の地殼応力を定量的に計測できるほとんど唯一の方法として,世界各国で実施例が積み重ねられて来たが,この経験を通して,従来の水圧破砕地殼応力計測法には多くの問題点が内在していることが,しだいに明らかになって来た。この基本的な原因は,水圧破砕地殼応力計測法において用いられる基礎観測データすなわち破断水圧,き裂開口圧及びき裂閉口圧の物理的意味が未解明のまま実用に供されて来た点にある。本研究は,岩石破壊力学に基づくアプローチと室内模擬水圧破砕実験とにより,上述の物理的意味を検討するとともに,観測データの客観的決定法を開発したものである。 継続2年計画の初年度である平成3年度では,破断水圧及び縦き裂の閉口圧についての検討を行った。破断水圧については,水圧破砕時の坑井壁からのき裂初生に関する局所応力破壊基準なる新しい基準を導入することで,破断水圧に加圧速度依存性及び坑井半径依存性を明解に説明することに成功した。さらに,室内模擬実験による検証を行った。従来,破断水圧は上述の2つの依存性の物理的背景が未解明であったため,データとしては重要視されていなかったが,本研究により,き裂面垂直方向の応力のみでなくこれと直交する2方向の応力の情報も含んだ極めて重要なデータとして使用できることが明らかになった。縦き裂のき裂閉口圧については,まず,破壊力学に基づく数値シミュレーションを実施して,水圧破砕により作成されたき裂の,シャットイン後の閉口挙動を明らかにした。その結果,岩体内への水の透水によるき裂内水圧の減少により引き起こされるシャットイン後のき裂閉口過程は,次の3つの段階に分けることが出来ることがわかった。すなわち,き裂全体が開口している状態から開口変位が漸減しき裂先端が閉じ始めるまでの第1段階,き裂閉口部が坑井表面に向かって広がりき裂全体が閉じるまでの第2段階,これ以後の第3段階である。しかも,最小地殼圧縮応力は第1段階の終端部の水圧に極めて近いことがわかった。さらに,各段階において,水圧減少速度の逆数と水圧との間に線形関係が成立することを示し,このことを利用して,き裂閉口圧を確定的かつ客観的に決定する方法を開発した。次に,日米両者で実施した室内並びにフィールド実験で得られたシャットイン曲線を,水圧減少速度の逆数と水圧との関係で整理し,上述の知見,すなわち,3直線近似が成立することを実証すると供に,高圧側からみて第1,第2直線の交点から最小地殼圧縮力を決定出来ることを検証した。 平成4年度においては,破断水圧以降のき裂成長時のボアホール水圧挙動,き裂開口圧及び横き裂閉口圧の検討を行った。まず,き裂初生以降一定流量で加圧を続けた際のボアホール水圧の大きさと,き裂面垂直方向の地殼圧縮応力の大きさとの差は,き裂初生からの経過時間の立方根の逆数の正比例することを明らかにし,き裂面垂直方向の地殼圧縮応力の大きさを評価する方法を開発した。さらに,室内実験によりこの方法の妥当正を検証した。次に再加圧時のき裂開口挙動を数値シュミレーションで再現し室内実験で検証した。その結果,以下のことが明らかになった。すなわち,再加圧によりき裂が開口しても,すぐにはボアホール水圧と時間の関係に顕著な変化は現れず,ボアホール水圧と時間の関係が明らかに非線形になり始めるときのボアホール水圧(いわゆるき裂開口圧)は,き裂が実際に開口し始めるときのボアホール水圧より高くなる。しかも,このき裂開口圧は,き裂面内方向の垂直応力の影響をほとんど受けないとともに,圧入流量が小さくなるに従って,き裂面垂直方向の地殼圧縮応力の大きさに漸近してゆく。したがって,圧入流量を種々変化させてき裂開口圧を測定し圧力流入が小さくなるときの漸近似を求めることにより,その漸近値としてき裂面垂直方向の地殼圧縮応力を評価できることになる。最後に,横き裂の閉口挙動について解析を行った。その結果,閉口過程は,縦き裂の場合と同じく,き裂縁が閉じ始めるまでと,き裂全体が閉じるまで及びそれ以降の3段階に分けられ,第1,3段階では水圧の時間降下率の逆数と水圧の間に線形関係が存在し,き裂閉口圧は,第1段階終末での水圧として与えられることがわかった。
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