研究概要 |
1.レセプター様ペプチドの合成とG蛋白活性化能のアッセイ: βアドレナリンレセプター,ムスカリンレセプターの細胞内第3ループに相当するペプチドを合成し,G蛋白を活性化するか否かを調べた。βレセプターペプチドはGs>Gi>Goの順でG蛋白を活性化することがわかった。また,M1レセプターの部分のペプチドはGi>Go>Gsの順に活性化することがわかった。そこで,レセプターとG蛋白との相互作用の特異性は部分ペプチドにしてもかなり保持されていることが明かとなった。また,これらの活性化能はペプチドのN末端を疎水性のドデシル基で修飾していないと見られないことから,ペプチドと脂質二重膜との相互作用がG蛋白の活性化に必須であると考えられる。(そこで項目4.の実験を行なった。) 2.G蛋白の大量発現: 組替え体Gsαs,GilαおよびGoα蛋白の大腸菌による大量発現(10mg/1以上)に成功し,レセプター様ペプチドとの相互作用にNMRによる解析に使用した(項目5.)。 3.全重水素化リン脂質の合成: 全重水素化したDipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC-d_<80>)とDilauroylphosphatidylserine(DLPS-d_<54>)を合成して,項目4の実験に使用した。 4.リン脂質二重膜に結合したレセプター様ペプチドのコンフォメーション解析: 活性化に関与するβレセプター細胞内第3ループの部分ペプチドは膜に結合して両親媒性のαヘリックスを形成することがCDとDLPS-d_<54>/DPPC-d_<80>の二重膜存在下のTRNOE(NMR)の実験により明かとなった。一方,ムスカリンレセプターの部分ペプチドはαヘリックス構造をとらなかった。さらに,Giα,Goαを活性化するマストパランXについてもDPPC-d_<80>存在下でTRNOE測定を行い,Distance geometryと分子動力学計算を行なうことによって,膜に結合した時のコンフォメーションを原子レベルで決定した。 5.G蛋白に結合したレセプター様ペプチドのコンフォメーションの解析: βレセプターの細胞内第3ループの部分ペプチドはGsαと相互作用すると,リン脂質二重膜と相互作用した時と同様にαヘリックスを形成することがGsα存在下のTRNOE実験よりわかった。またこのペプチドはGilα存在下でもαヘリックスを形成するが,Gsαと比ベると相互作用は弱く,ペプチドの親水性アミノ酸側鎖のコンフォメーションが異なることがわかった。そこで,βレセプター分子の中でのGsとGiを見分けているのは疎水性の残基でなく,親水性の残基であることが強く示唆された。さらに,Giα,Goαに結合したマストパランXの構造をTRNOEで解析し,やはりαヘリックスを取っていることを明らかにした。 6.安定同位体ラベルをしたG蛋白の調製: ^<15>NユニフォームにラベルしたrGilαを調製した。また,蛍光の実験より,トリプトファン残基はG蛋白の活性化に伴う構造変化と密接に関連していると考えられているので,rGilαの3つのトリプトファン残基だけを選択的に^<15>NにラベルしたrGilを調製した。 7.活性化に伴うG蛋白の構造変化の解析: ^<15>NでユニフォームラベルしたrGilαを2D-HMQCにより解析した。分子量41kdと大きな蛋白であるにもかかわらず,30%以上のシグナルが分離した観測された。GDP型蛋白をA1^<3+>,Mg^<2+>とF^-で活性化すると,多くのシグナルがシフトした。そこで活性化に伴う構造変化は局所的でなく,分子のかなりの部分におよぶことが明となった。また,レセプターと相互作用するG蛋白の部分については現在研究中である。 8.リン脂質二重膜とレセプター様ペプチドやG蛋白との親和性の定量的解析: リン脂質二重膜とペプチドや蛋白との親和性を解析する目的で,水晶発振子による微小量天秤(QCM)の測定系のセットアップを行っている。その過程で,リン脂質の水和がQCMで簡便かつ定量的に測定できる事がわかり,リン脂質の液体の水の中での水和を系統的に解析した。
|