研究概要 |
1,不安定性を持つ非線形系に対して,ソリトン理論を拡張した。特に不安定系において,振幅変調がどのように記述されるかを考察した。通常の非線形シュレディンガー方程式の代りに,時間tと空間xを入れかえた非線形発展方程式が導びかれる。この方程式は不安定系の非線形波動を記述する点において普遍的であり,我々は不安定非線形シュレディンガー方法式と名づけた。不安定非線形シュレデインガー方程式は完全積分可能系であり,初期値問題を解くことができる。物理系への応用として,レーリー・テイラー不安定系と電子ビーム・プラズマ系を考察した。局在波の存在は,プラズマにおける実験で最近観測された。 2.不安定非線形シュレディンガー方程式は,小さま波数kに対して,上限なしの不安定性を持つ。数学的には,「適切でない」問題とよばれる。逓減摂動法を適用することによって,新たに1つの微分項がつけ加わることを示した。この新しい振幅方程式は,完全積分可能系ではない。一方,カオス現象とソリトン現象の橋渡しをする方程式であることが期待される。この方程式の数値解析が,米国の2つのグループで進行中である。 3.非線形媒質において,不均一性がある場合,どのように非線形波動が伝播するかを考察した。深さが一定でないときの浅水波や密度が一定でないときのプラズマ波等が,その例である。一様でない質量分布を持つ1次元非線形格子に対する運動方程式から出発し,ゆっくり変動する非線形波動と,振幅変調の非線形波を調べた。そのおのおのの波に対して,ランダム性や不連続性の影響を調べることができた。さらに模型を一般化し,2次元格子において,不連続線がある場合の非線形発展方程式を導出することができた。不連続領域で波動場をつなげる関係式が得られる。ソリトン解に対して,その関係式を用いることにより,どのようにソリトンが透過,反射,屈析を行なうかを調べることができる。こうして,波の透過,反射,屈析現象に対する非線形理論を提出した。 4.ランダム行列は,複雑な量子力学系や量子カオス系のエネルギー準位を記述する模型として注目を集めている。実験に,実対称行列,エルミート行列,自己双対4元数行列の場合に,準位相関関数を計算し,それらが共通の性質(普遍性)を持っていることを示した。また,直交多項式に関係したアンサンブルにおいて,アンサンブル平均と各アンサンブルの等価性(エルゴード性とよぶ)を証明することができた。 5.非線形シュレディンガー方程式は,光ファイバーを伝播する光ソリトンを記述する。応用においては,2つの偏光を考える必要がある。非線形シュレディンガー方程式を2成分系に拡張して,それらの性質を考察した。2つの偏光が結合した孤立波を求れることができた。そのような光ソリトンの験証は将来の興味深い研究課題である。 6.2次元空間内の1次元物体(ひも)の運動は,物理的にも数学的にも興味深い。数学的には,非線形発展方程式の幾何学的記述を与える。物理学的には,渦系の運動,界面成長,炎面の伝播,化学反王等の模型と考えられる。ひもの速度が物理法則から決められるとき,ひもの曲率がどのような非線形発展方程式に従うかを一般的に議論した。この方法式系は,固有値をゼロとする逆散乱形式と等価であることがわかり,よって,積分可能系と非積分可能系の両方を含んでいる。特に,変形KdV方程式に帰着させる場合において,どのような閉曲線が得られるかを考察した。その結果,円環と8の字型に2種の曲線を得た。同様に,3次元空間内の1次元物体の運動は,曲率とねじれ率に対する非線形発展方程式に帰着される。その一例は,既に橋本英典氏によって見出された渦系の方程式(非線形シュレディンガー方程式)である。さらに,3次元空間内の2次元物体(面)の運動を記述することに成功した。これらの定式化は一般的であり,流体力学や生体物理への応用を準備している。 7.厳密に解ける模型と結び目理論の関係を明らかにし,新たに色つき不度量を提出した。また,ランダム・ウオークのトポロジー的解析を行ない,そせらの生成確率を計算した。
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