研究分担者 |
設楽 智也 ロンドン大学インペリアルカレッジ, 研究員
D. Vvedensky ロンドン大学インペリアルカレッジ, 準教授
B・A・ Joyce ロンドン大学半導体材料研究所, 所長, 教授
鈴木 貴志 東京大学, 工学部, 学振特別研究員
田中 雅明 東京大学, 工学部, 講師 (30192636)
JOYCE BRUCE.A. IRC SEMICONDUCTOR MATERIALS, UNIVERSITY OF LONDON, PROFESSOR
VVEDENSKY Dimitri D. IMPERIAL COLLEGE, UNIVERSITY OF LONDON, ASS.PROFESSOR
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研究概要 |
微傾斜面を持つ基板上には多数の原子ステップが現れる。この上に分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy,MBE)法を用いて結晶成長を行うことにより成長の素過程に関する様々な情報が得られる。本共同研究では,日本側が実験と理論,英国側が実験と計算機シミュレーションを行い,この結果を持ち寄り研究討論を行い素過程の解明を行おうとするものである。本研究で得られた成果は次のようにまとめられる。 1)日本側微傾斜面上でのMBE成長では低温で二次元核形成による成長が,高温でステップフロー成長が起る。この成長モードの移り変わりを高速反射電子線回析(RHEED)により検出し,理論解析を行うと原子の表面拡散距離を求めることができる。この手法によりGaAsMBE成長におけるGaとAlの表面拡散距離を求めた。次に,ステップ端でMBE成長がどの程度平衡に近いかを実験的理論的に調べ,GaAsのMBE成長ではステップ端での過飽和度は20%以下であることを明らかにした。これによると,ステップ端では成長は平衡にかなり近いことが示された。次にマイクロプローブRHEED-MBE装置により二つの異なる面を持つ基板上にMBE成長させたときの原子の表面拡散につき調べた。それによると面間を原子が表面拡散により移動するときは部分的にストイキオメトリーが成立しなくなり,特にGaAsの成長の場合,Gaリッチの状態となることがわかった。さらに同じμ-RHEED-MBEにより,成長表面での再構成の動的な変化を調べた。それによると,再構成は二次元的ドメインから始まり,それが成長表面全体に広がる形で移り変わることが発見された。 2)英国側 上記の成長モードの移り変わり近く,低温側でRHEED振動の周期が長くなる現象が発見された。これにはステップ端にとり込まれる成長原子の多い少ないに関する情報が含まれているのでくわしい解析を行った。それによると,取り込みはAs圧によること,従ってステップ端はある程度非平衡であることが示された。さらに,ステップの方位によってモードの移り変わりの温度が異なるのは,表面拡散に異方性があるためではなく,ステップ端での成長反応が容易であるかどうかに関係することがわかった。 1)で述べた二つに面を持つ基板上でのGaAsのMBE成長に関するモンテカルロシミュレーションを行った。具体的には(100)基板に(111)A面で構成されるV形の溝を形成しMBE成長するとV溝から(100)面にGa原子が流れる。この流れのためにV溝のはじから(100)面上で成長速度の不均一が起る。この様子をシミュレーションした。その結果によるとこの流れは各面上での核への取り込みまで含めた流動量の差に起因することが判明した。 3)日英共同の成果 上に述べた各国側の成果は本共同研究の主題である微傾斜面上のMBE成長素過程を各々の得意の分野で分担し意見交換しながら明らかにしたものであるが,これに加えて共同ど作業も行った。すなわち,日本側から鈴木貴志研究分担者が英国に出かけ英国側の設楽智也研究員とともにモンテカルロシミュレーションによりステップ間の原子の分布を求めた。それによると,日本側で理論的に予想していた原子分布に極めて近い分布が得られたが,理論では,無視していたクラスターの寄与がある程度存在していることが明らかとなった。この仕事は共著で論文(Appl. Phys. Lett. 印刷中)として発表されることになっている。 以上2年間という短い期間ではあったが,お互いの研究者の交流や共同での論文発表も行うことができ実り多い共同研究であった。今後,何らかの形で共同研究を継続したいという点で両国側の意見は一致している。
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