研究課題
国際学術研究
1 フラボノイド生合成遺伝子マメ科植物において、フラボノイドの生合成は、外界からの刺激によって誘導される。この誘導は転写レベルで制御されている事が既に明らかになっている。カルコン合成酵素はフラボノイドの生合成の最初の反応を触媒しており、カルコン合成酵素のゲノムからの転写制御を解明することは非常に重要と思われる。一方、この外界からの刺激によって誘導されるという現象は、遺伝子導入による植物の形質転換を行う際、導入した遺伝子を特定の時期に発現させる上で有用と思われる。我々は、薬用植物であるマメ科のクズの培養細胞を材料にフラボノイドの生合成研究を行ってきており、本研究においては、クズのカルコン合成酵素(CHS)とデオキシカルコン生成の際CHSと協同的に働く還元酵素(CHR)の遺伝子を対象としてとりあげ、それら遺伝子の制御の解明と、プロ-モーターとしての応用を目的として研究を行った。(1)CHSとCHRのcDNAクローニングインゲンのCHScDNAをプローブとして、クズのcDNAライブラリーをスクリーニングし、クズのCHScDNAを得た。CHRについては、ダイズのN末及びC末の配列を利用して、クズのmRNAから逆転写して得られたcDNAを鋳型にPCRを行い、CHRのcDNAを得た。(2)CHS及びCHRのゲノム遺伝子クローニングクズのcDNAをプローブとして、クズのケノムライブラリーをスクリーニングして、CHSゲノム遺伝子を得た。このゲノム遺伝子は、外界からの刺激によって誘導される遺伝子として既に報告のあるインゲンのCHSと極めて高い相同性を示し、得られたクローンは、外界からの刺激によって誘導されるクローンと推測した。CHRについても、同様にして3つのゲノムクローンを得ているが、それらの5'上流の配列にCHSとの顕著な相同性は、みられなかった。しかしながら、mRNAの解析から、CHS、CHR共に、外界からの刺激によって転写レベルで制御されていることが判明しており、それぞれ、別々の制御因子が関与していると推測される。(3)CHS5'上流配列のプロモーターとしての応用本研究において得られたクズCHSゲノム遺伝子は、既に報告のあるインゲンのCHSとその相同性から外界からの刺激によって誘導されるクローンと推測したが、実験事実による裏付はなかった。そこで、クズCHSゲノム遺伝子の5'上 … もっと見る 流領域約500bpを取りだし、reporter geneとしてGUS geneを繋ぎ、このプロ-モーター活性を調べた。比較的に短時間にプロ-モーター活性を調べることができるタバコ毛状根レベルでの活性を調べた。その結果、エリシターとして知られている塩化銅に対して低濃度で反応し、GUS活性があらわれた。この事から、クズCHSゲノム遺伝子の5'上流領域は、外界からの刺激によって誘導されるプロ-モーターであると考えられ、今後、植物遺伝子導入におけるプロ-モタ-として、その応用を考えている。また、CHRのゲノム遺伝子についてもクローニングに成功しており、CHRのゲノム遺伝子についても同様に、プロ-モタ-としての特異性を検討し、その応用を検討していきたい。2 テルペノイド生合成遺伝子一般にテルペノイドは、多様な構造を持ち、医薬品としての価値は高い。本研究においては、ステロールとトリテルペンをとりあげた。植物においては、ステロールとトリテルペンの生合成は、オキシドスクアレンが環化する環化酵素の反応で分岐している。ステロールへ至る経路では、サイクロアルテノール環化酵素が働き、トリテルペンへ至る経路ではβ-アミリン環化酵素などが働く。サイクロアルテノール環化酵素は、広く植物に分布しており、その基質であるオキシドスクアレンも広く植物に分布している。β-アミリン環化酵素は限られた植物にしか分布しておらず、β-アミリン環化酵素の遺伝子を、β-アミリン環化酵素を持たない植物に導入することにより、その発現後、どのようにテルペノイド生合成系が変化するか非常に興味深い。以上の観点から、本研究では、β-アミリン環化酵素とサイクロアルテノール環化酵素の遺伝子のクローニングを行った。(1)β-アミリン環化酵素のcDNAクローニングエンドウの種子からβ-アミリン環化酵素を精製し、エンドプロテアーゼで加水分解後、それぞれのペプチドのアミノ酸配列を決定した。得られた配列をもとにオリゴDNAを合成しPCRを行い、β-アミリン環化酵素の部分cDNAを得た。この部分cDNAをプローブとしてライブラリーをスクリーニングし全長のクローンを得た。得られたクローンがβ-アミリン環化酵素をコードしてることを、大腸菌で発現させ確認した。(2)サイクロアルテノール環化酵素のcDNAクローニング同様の手法によりクローニングを行ったが、全長のクローンを得るには至っていない。今後、PCRにより、cDNAを5'側に伸張し、全長のクローンを得る計画である。3 遺伝子導入及びプロ-モータ解析外来遺伝子を植物に導入し新しい形質転換植物を作製する際、用いるプロモータがどのような制御を受けて発現するのかという基礎的な研究は是非とも必要である。本研究では、β-conglycinin遺伝子をとりあげた。いくつかのデリーションクローンを作製し、発現に必要な配列を調べたところ、CATGCAT配列が種子特異的に発現するのに必須な配列であることが判明した。また、遺伝子導入の研究において、周囲の遺伝子の効果や、導入された位置による影響、ダブルトランスフォーメイションによる遺伝子発現の変化について幾つかの知見が得られた。 隠す
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