研究概要 |
これまではスチレン、4-オクチルスチレン、イソプレンと2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とのブロック共重合体の表面構造をXPS,SIMS,フィルム断面の電子顕微鏡観察、接触角測定から解析してきた。今年度は親水性ブロックとして2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート(DIMA)とスチレン、4-オクチルスチレン、イソプレンとのブロック共重合体を合成し、その表面構造の静的および動的解析をおこなった。 ブロック共重合体は、まずアニオン開始剤によりスチレン、4-オクチルスチレン、イソプレンのアニオンリビングポリマーを合成し、これにDIMAの二つの水酸基をジオキソラン環で保護したモノマーを反応させて得た。特に、後半のDIMAの重合をリビング的に進めるために疎水性モノマーのアニオン成長末端は1,1-ジフェニルエチレンでキャップし、さらに、LiClを加えてブロック共重合をおこなった。電子顕微鏡観察の試料は、まず各ブロック共重合体の3%DMFあるいはTHF/MeOH溶液(5/1,v/v)からキャストフィルムを作成し、得られたフィルムは製膜直後気相でOsO4ガスによりあるいは水中浸漬後OsO4水溶液で染色し、エポキシ樹脂で包埋マイクロトームで超薄切片を切り出して作成した。XPSおよび接触角測定用試料は3%のブロック共重合体溶液をガラス板上にスピンコートし、風乾後使用した。XPS測定は10、20、45、80度で製膜直後、水中に浸漬後、再乾燥(加熱)後、にそれぞれおこなった。試料フィルム上の水の接触角測定は試料を室温下あるいは加熱下で空気中に一定時間静置した後、もしくは一定時間水中に浸漬した後、スピンコータですばやく水分を取り除いた後、おこなった。 電子顕微鏡観察により、スチレン-DIMA、4-オクチルスチレン-DIMA、イソプレン-DIMAのフィルム断面についてその表面付近の観察に成功した。まず、スチレン-DIMAでは製膜時の表面はポリスチレンのミクロドメインで完全に覆われているが、水中に30分程度浸漬するとこの約100オングストロームのポリスチレンミクロドメイン層は消失し最表面にはポリDIMAいおおわれた球状のポリスチレンドメインが散乱する状態に変化する様子が明瞭に観察された。4-オクチルスチレン-DIMA、イソプレン-DIMAフィルムの表面も同様に製膜時には疎水性セグメントのミクロドメインで最表面が覆われていること、水中に浸漬後はポリDIMAのミクロドメインのわずか数秒間で置換されることが判明した。また、最表面だけではなくかなり内部のまで水が浸入しミクロ相分離構造が完全に変化することも明らかになった。 XPS測定では、電子顕微鏡観察の結果と同様製膜時は表面に疎水性セグメントが濃縮されていること、水中に浸漬後はポリDIMAセグメントが濃縮されることが明らかになった。しかし、4-オクチルスチレン-DIMA、イソプレン-DIMAの場合は、XPS測定中に再び疎水性表面の戻る傾向があり、まだ十分な結果を掌握できていない。このことに関しては米国側の凍結乾燥装置の設けてあるXPSで測定する必要があり、現在測定を進めている。 接触角測定では、スチレン-DIMAフィルムではXPS電子顕微鏡観察と矛盾しない結果が得られたが、4-オクチルスチレン-DIMA、イソプレン-DIMAのフィルムでは表面に水滴が接触する短い時間内に表面構造が逐次変化するため、正確な測定値を得ることはできなかった。しかし、これはそれだけ表面構造の水に対する反応が迅速であることを反映したものであり、この場合接触角測定では動的な表面構造を追跡するのは方法として無理があると考えられる。 以上、本年度は親水性の非常に高いポリDIMAとそれぞれガラス転移点の異なる疎水性セグメントからなるブロック共重合体フィルムの表面について静的および動的構造解析をおこなってきた。前年までのポリHEMAとのブロック共重合体の解析結果と比較検討して成果をまとめる予定である。
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