研究課題
国際学術研究
樹状細胞はT細胞依存性の免疫応答が開始されるときに抗原提示細胞として強力な機能を発揮することが知られている。この細胞は、骨髄幹細胞に由来することが移植実験から知られており、マクロファージと似た表現型を示すことから両者の類縁関係も推測されていた。しかし、樹状細胞の分化過程に関する知見はこれまでほとんどなかった。そこで、in vitroにおける樹状細胞の分化増殖誘導の系を確立することをにより、樹状細胞の分化経路を明らかにし、さらにその機能を検討することを目的として、3年間にわたる研究を行い、本年度はその最終年度として以下の結果を公表した。1)昨年度までの研究で、マウス血球細胞や骨髄細胞中にはGM-CSFにより樹状細胞へと増殖分化する前駆細胞が存在することが明らかである。しかし、この培養では同時に、多数の顆粒球とマクロファージも同時に出現してくることから、前駆細胞がこれら3者の細胞群へ分化できるより未成熟な細胞に由来するのか、樹状細胞へと分化する前駆細胞が、既に骨髄の中で分化の方向性を決定されてしまっているのかは明らかではない。この点を明らかにするため、メチルセルロースゲルにGM-CSFを添加し、コロニー形成法で検討した。その結果、樹状細胞はマクローファージや顆粒球と同じコロニーに含まれることが明らかになった。また、コロニーの中で分化してきた樹状細胞は、ゲル中に遊離してきていることも顕微鏡下で観察された。なお、このようなコロニー形成法には従来ウマ血清が使用されていたが、樹状細胞の分化誘導にはウシ胎仔血清を使用したほうが良好な結果が得られることも判明した。2)これまで、樹状細胞には貪食作用が検出されないことから、粒子状抗原のに対する免疫応答の始動における抗原提示細胞としての役割については否定的な見方が体勢を占めていた。そこで、in vitroでの樹状細胞の誘導の系において、未成熟な細胞を対象としその食作用を検討した。その結果、MHCクラスII抗原を発現し始める時期の細胞は、ラテックスや炭素粒子を取り込む活性を有することが示された。また、この時期の細胞には、マクロファージ同定の指標とされる非特異的エステラーゼ活性だけでなく酸性フォスファターゼやマクロシアリンなどの細胞内消化酵素活性が検出された。しかし、マクロファージに比べると非特異的エステラーゼ活性は弱く、Fcgレセプターを介する抗体被覆赤血球の結合は見られたが、それに対する貪食機能は極く希にしか認められなかった。一方、成熟した樹状細胞では、既に知られているように、貪食活性は見られず、細胞内消化酵素活性も低下し、非特異的エステラーゼ活性は消失していた。ラテックス粒子などの場合と同様、未熟な樹状細胞は結核菌(BCG)の生菌も捕食し、培養を継続するとMHCクラスII抗原やNLDC-145抗原の発現量を増し、細胞の表現型としては成熟した樹状細胞となった。また、BCG由来の蛋白抗原であるPPD特異的T細胞と混合培養するとその増殖応答を誘導した。しかし、成熟した貪食能を消失した樹状細胞では、特異的T細胞応答の誘導は認められなかった。さらに、BCGを取り込んだ樹状細胞をマウス足蹠に接種すると膝窩リンパ節で、尾静脈より投与すると脾臓でPPD特異的T細胞の活性化が誘導されていることも示された。これらの結果から、樹状細胞は分化の過程で貪食機能を持つが、成熟するにつれてその活性を失うことが明らかであり、しかもこの過程で捕食した粒子状物質を細胞内で分解し、抗原として提示して特異的T細胞の活性化を誘導することが確かめられた。3)なお、生体より調製直後のランゲルハンス細胞にはラッテクス粒子や酵母菌に対する貪食活性が検出されることが、申請者らによるこれらの研究結果ととほぼ同時期に公表された。しかし、脾では、樹状細胞と同定される細胞には炭素粒子などの捕食は組織学的検討からは検出されず、専らマクロファージへの取り込みが認められた。このことから、樹状細胞は貪食機能を有してはいるが、生体内における異物処理には寄与していないと考えられる。
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