研究分担者 |
MICHAEL A. S 米国, 国立標準局・高分子部門, 研究員
AIME S. DERE 米国, 国立標準局・高分子部門, 研究員
G.THOMAS DAV 米国, 国立標準局・高分子部門, グループリーダー
永田 実 京都府立大学, 短期大学部, 教授 (40046511)
堤 直人 京都工芸繊維大学, 繊維学部, 助教授 (50172036)
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研究概要 |
強誘電ポリマーのβ-結晶双極子の配向によって形成される内部電場に注目して,この内部電場による色素の配向制御に基づいた新規な非線形光学材料の分子設計を目的として研究を進めた。 平成3年度は,強誘電ポリマーであるフッ化ビニリデン(PVDF)とポリメチルメタクリレート(PMMA)とのブレンドポリマーに非線形光学(NLO)色素を導入したシステムでの,色素のエレクトロクロミック性を利用した内部電場標価,サーマルパルス法による分極分布の測定,および第2次高調波発振(SHG)の非線形光学特性を検討した。PVDFとPMMAとの溶融急冷ブレンドは,80/20のブレンド比で優先的にβ-PVDF結晶相をとる。このブレンドポリマーをホストポリマーとして,エレクトロクロミック性をもち,かつNLO特性を有する4-ジメチルアミノ-4′-ニトロスチルベン(DANS)を分子分散させた試料を調製した。 内部電場は数MV/cmであり,ポーリング電場と比較して数倍も大きいことが判明した。分極分布の測定の結果,空間電荷の形成によって内部電場が安定化されていることが判明した。このブレンドポリマーはβ-PVDF結晶双極子の非中心対称性に起因してそれ自身で大きなSHG特性を示し,SHG係数はEi=4.2MV/cmでd_<33>=9.36×10^<-9>esuと大きな値を示した。内部電場が大きくなるとd_<31>は小さくなり,d_<33>係数は大きくなった。d_<33>/d_<31>はブレンド内での結晶双極子の膜厚方向への配向の程度を示し,この値が大きいほどより配向している。その結果,内部電場が大きいほどd_<33>およびd_<33>/d_<31>の比は大きくなることが判明した。 平成4年度は,フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとの共重合体(P(VDF-TrFE))とPMMAとのブレンドおよびP(VDF-TrFE)と新規に合成したペンダントNLO色素含有メチルメタクリレート(MMA)コポリマーとのブレンドに関して,色素のエレクトロクロミック性を利用した内部電場評価,サーマルパルス法による分極分布の測定,およびSHGの非線形光学特性を検討した。アミノニトロアゾベンゼン系のNLO色素をペンダント基とするMMAコポリマーを合成して,新規なNLO色素含有MMAコポリマー(P(MMA-co-MMA-DR1))とした。P(VDF-TrFE)/PMMA及びP(VDF-TrFE)/P(MMA-co-MMA-DR1)ブレンドはβ-結晶相が存在するにもかかわらず紫外・可視・近赤外領域で光の散乱はほとんどなく透明であり,SHG材料としてそのポテンシャルは高いことが判明した。P(VDF-TrFE)/PMMA及びP(VDF-TrFE)/P(MMA-co-MMA-DR1)において,P(VDF-TrFE)が60wt%以上のサンプルでは105℃にキュリー転移点が明瞭に現れた。P(VDF-TrFE)含有量が100,90,80wt%のP(VDF-TrFE)/PMMAでは,3.2,3.2,2.2 MV/cmの内部電場が得られ,これらの値はX線回折の(110)(200)反射ピークから求めた微結晶サイズ55,50,35Aにそれぞれ対応した。分極分布は均一であり,空間電荷などの存在は認められなかった。内部電場はキュリー転移点までほとんど変化せず安定であった。P(VDF-TrFE)及び(90/10)P(VDF-TrFE)/PMMAでは,SHG係数d_<33>は,それぞれ3.3×10^<-9>及び2.3×10^<-9>esuであった。これらのd_<33>はキュリー転移点近傍までほとんど変化しなかった。P(MMA-co-MMA-DR1)のみのサンプルでは結晶双極子の配向に基づく内部電場が存在しないので,ガラス転移点(Tg=110℃)以下の温度領域でも分子緩和のためにd_<33>は減少していき,Tg近傍でSHG活性はほとんど失われた。それに対してP(VDF-TrFE)/P(MMA-co-MMA-DR1)では,内部電場によってNLO色素の非対秒中心配向が保たれており,Tgが38℃にもかかわらず,d_<33>はキュリー転移点近傍まで安定であった。 以上のように,強誘電ポリマーのβ-結晶双極子の配向によって形成される内部電場はNLO色素を安定に配向制御できることが判明した。
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