研究課題
国際学術研究
近年循環器系の疾患の増加が著しく、その多くが高血圧症を基礎疾患とする場合が多いことから、高血圧症の発症機構の解明、臓器障害の予防、抗高血圧薬の開発は重要である。ガンテン等は、ラットの受精卵にマウス顎下腺レニン遺伝子を移入し、新しい高血圧モデルラットを作製した。このトランスジェニックラットの利用法を調査する目的で病因の解析と降圧薬等の作用を調べることにより、このモデル動物作製製法が有効な薬理学的手法となりうる可能性を検討調整した。1.飼育環境と試料:飼育は、室温21゚C、湿度50%で毎時15Lの空気を換気した部屋で行ない、12時間の照明を300Luxで行なう。飼料として、Altromin社製のalterpomin1314の飼料を使用する。飼料の組成は、タンパク質19%、カルシウム0.9%、ナトリウム0.2%、マグネシウム0.2%、リン0.7%である。2.成長と寿命:42週令までの経過は、体重増加はオス(10週-330g、20週-450g、30週-515g、40週-520g)、メス(10週-225g、20週-290g、30週-310g、40週-330g)であった。この体重増加は、heterozygousのものでもhomozygousでも同様であった。さらに寿命に関しては検討中であるが、homozygousの寿命は短く、heterozygousは1年以上生存し、血圧の上昇の程度と相関が高い。ストレスに対してもhomozygousは弱い。3.血圧上昇の時間の経過:4週から8週にかけて、血圧は急激に上昇する。オスの血圧は、メスより高値である。homozygousは、オス・メス共にheterozygousより血圧は高い。4.導入遺伝子の発現:副腎での発現が著しく増加し、さらに胸腺・消化管・生殖器・腎・脳・肺にも発現しているが、肝と顎下腺には発現していない。5.高血圧の発症原因:導入遺伝子により高血圧を発症する機序として(1)血管床のレニン・アンジオテンシン系の亢進。(2)副腎のレニン・アンジオテンシン系の亢進によるステロイド体謝を介する。(3)中枢の視床・視床下部でのレニン・アンジオテンシン系の亢進。これら3つの機序が実験により認められている。6.カプトプリルとDuP753に対する降圧反応:カプトプリルを体重1mg投与すると、血圧は正常値になる。また、アンジオテンシンII受容体拮抗薬であるDuP753投与によっても血圧は正常化する。すなわち、レニン・アンジオテンシン系の抑制により降圧することになる。7.減塩食の投与により血圧は正常化することから、副腎のアルドステロンが関与することも報告されている。8.臓器障害:血管内膜の狭小化と血管筋層の肥厚が、血圧上昇に伴って起こること。また、腎臓では糸球体病変と細動脈硬化が生じていることから高血圧による臓器障害を起こしている。以上の結果から、このトランスジェニックラットは高血圧症のモデル動物として医学的に重要な意義を持つと同時に、この動物を使用して臓器障害の予防の研究を行なうことが可能である。
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