研究課題
国際学術研究
ブラジル南部の森林開発はサンパウロ州では1850年頃に始まったがその原因はコーヒー栽培のための森林の開発である。そのための原生林の減少はつぎの数値を見ると一目瞭然であろう。サンパウロ州の州面積に対する原生林の割合は1850年に81.8%、1920年に44.8%、1952年に18.2%、1973年には8.3%になっている。パラナ州でも同様の経過をたどり、1895年に84.1%であったのが、1930年には64.7%、1950年には39.7%、1965年には23.9%、そして1980年には5.1%となるのである。従って現在、サンパウロ州の州都サンパウロ市やパラナ州の州都クリチバ市の周辺には原生林は残っておらず、わずかに海岸山脈にその姿をとどめるだけである。そこでこうした都市に住む住民と未だ森林の豊かなアマゾナス州の州都であるマナウス市の住民とに森林意識に差がみられるかどうかの森林意識調査を行った。その結果を4項目にわけて分析した結果はつぎのとおりである。(1)日常生活の中の森林ブラジル人の好む旅行先は「広い砂浜」である。ドイツ人が「森」を、フィンランド人が「湖」を多く選ぶように、ブラジル人は「砂浜」を選ぶ。彼等にとって海岸あるいは河岸での日光浴あるいは水泳はこの上ない喜びである。森林への関心はヨーロッパ人ほど高くないが、日本人よりは高いように思われる。また森林を失ったサンパウロやクリチバの住民にくらべ豊かな森を持つマナウスの住民の方が森への関心は高いという結果が出た。(2)樹木や森林に対する神秘感大きな古い木を見たり、深い森に入ったとき9割近くの人々が神秘感や神々しい気持ちを持つことがわかった。これは我国の人々にとってもヨーロッパの人々にとっても共通の感情であるが、我国では巨大都市東京でこうした感情が失われがちであった。その点巨大都市サンパウロ市住民を含むブラジル人の9割近くがそうした感情を持つことを知り得たことは大きな収穫であった。ブラジル南部において大きな古い木や深い森を失ったことは彼等にそうした感情を得る機会を失わせたことになる。そこで樹形のすばらしいアラウカリア(パラナマツ)の大森林や樹種の多様な広葉樹林の再造成がブラジル南部でとくに重要であると考えられる。(3)森林経営等に関する意見我国若者の林業知識の乏しさは最近とくに著しく、森林を美しく維持するためには人手が必要であることを認識している高校生は2〜3割にすぎない。この点ブラジル人の理解は高く、高校生でも5割を越えている。都市別にみるとマナウス市でこの値が高い。人手が加わった自然が好きであるという意見もマナウス市では多いことから、州政府の「森林経営」の宣伝もあるようだが、必ずしも原生林をそのまま残せという意見ばかりが強いわけではなさそうである。むしろ人工林の造成も含め、森林を失うことなくすぐれた森林の保続的な経営が続けられていくことが今後の課題といえよう。(4)好まれる樹種その形がすばらしく、材も実も役に立つブラジルのシンボル的な木であるアラウカリア(パラナマツ)がどの都市でもよく選ばれている。また花の美しいイペ-も各都市でよく選ばれる。マナウス市でよく選ばれる木には果物の美味なマンゴ-などがあげられる。ブラジル人も古い大きな木を見たり、深い森に入ったとき、神秘的なあるいは神々しい気持ちを持つ。こうした感動はドイツ人や日本人に劣らぬものがあって、南部の諸州からそうした森林が消失したことは惜しんでも惜しみきれない。従って時間や経費がかかっても南部諸州ではブラジルのシンボルでもあるパラナマツ林や広葉樹林の再造成が重要であろう。マナウス地域にあってはことに人々の森林への親しみが強いわけであるから、森林を失うことは許されないことであって、人工林を造成することを含めて今後保続的に森林経営を行っていくことが何よりも重要であろう。なお今後の研究課題として、アマゾン地域のような原生林地帯で人工林が好まれること等の意味をブラジルのみならず、中南米の他国においても検討してみる必要があろう。
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