研究概要 |
インフルエンザA型ウイルスは極めて変異を起こし易く,病原性も高い。ウイルス膜ヘマグルチニン(HA)はウイルス特異抗原であると同時に宿主細胞膜受客体への結合,膜融合による細胞内侵入にとって必須の分子である。HAは,抗原性により区別される亜型(H1-H14)が知られている。我々は,ヘマグルチニン遺伝子の大規模変異とレセプター糖鎖認識の変化を調ベ,以下の結果を得た。 1)H1-H13全てのA型ウイルスヘマグルチニン亜型の遺伝子の塩基配列を初めて決定し,それに基づきアミノ酸配列を決定した(H1-H3,ヒト;H3-H13,トリ)。その結果,Fusionを起こす領域は全ての亜型で保存されていること,レセプター結合ポケットを構成するアミノ酸のうち,98,153,183,195,134,138は完全に保存されているが155,224,225,226,227,228,229,135,136,137については僅かに変異していることが判明した。 2)次いで全ての亜型についてレセプターガングリオシドに対する認識特異性を調ベた。その結果,どの株も共通してラクト系(typeI,TypeII)糖鎖が最も強く認識すること,変異に伴いシアル酸の結合様式(2,3;2,6)に対する認識が変化することを見いだした。 3)レセプター結合ポケット内アミノ酸226は,H3のみLeuで他は全てGinであることを発見した。 4)抗原決定領域にあるSer205がシアル酸の結合様式の認識に重要であることを見いだした。すなわちSer205→Tryの点変異がシアル酸の結合様式(2,3;2,6)に対する認識の変換を起こすことを見いだした。 以上の結果からインフルエンザウイルスヘマグルチニンポケットは他の部分が変化しても良く保存されていること,ウイルスの変異に伴いシアル酸の結合様式対するレセプター認識のみが変化することを見いだした。
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