研究概要 |
本共同研究では,自己免疫疾患の発生機序解明を主たる目的として胸腺内分化過程で自己反応性T細胞が選択分化或いは除去される現象を再現できる実験系モデルを作製する。具体的には,特定抗原を認識するT細胞クローンのみからなるT細胞抗原レセプター(TCR)トランスジェニックマウスを作製し,それら各分化段階の未熟T細胞の分化を誘導系を設定する。後者の系として日本側で分化誘導能をもつ胸腺ストローマ細胞株を昨年樹立した。抗原特異的TCRトランスジェニックマウス作製は米国の指導で両国で試み,それぞれ異なるTCRを使用したOVA特異的に反応するマウスを得た。1992年度にはそれらを発展させ,以下の結果を得た。 I.作製したOVA特異的TCRトランスジェニックマウスはOVA抗原特異的反応性を示すT細胞からなる。OVAに濃度依存性に著明に反応して増殖したが,通常マウス脾細胞はいずれにも反応しなかった。さらにこの反応性の特異性をより正確に検討するため,MHCの1-A^d分子及び導入遺伝子TCRと結合するペプチドOVA-P1と,MHC-I-A^dとのみ結合してTCRは結合しないOVA-2を合成し,OVAの場合と同様に培養系に加えて増殖状態を調ベると,OVA-P1添加の場合のみTCRトランスジェニックマウスの脾細胞が増殖した。このOVAペプチド特異性はTCRを単離したT細胞クローンと同一である。つまり,導入遺伝子TCRを発現したOVA特異的T細胞が作製したトランスジェニックマウスの脾臓に優位に存在していることが示され。ほぼ目論みどおりのマウスが得られたと判断された(日本及び米国)。 (2)in vivoに於ける反応:無感作のトランスジェニックマウス及び通常マウスのfootpadにアルミニュウムゲル沈殿OVAを皮下注射すると,24時間後トランスジェニックマウスにはfootpadに明らかな腫脹が観察された。OVA以外の抗原注射ではFootpadに腫脹は無かった。すなわち,T細胞により担われているアレルギー反応である遅延性型過敏症(DTH),通常では予め感作した状態にあるマウスに抗原を再度投度した場合,局所に生ずる現象であるが,トランンスジェニックマウスでは,感作なしで十分反応するクローンが存在することを示す(日本)。 II.抗原に遭遇した未熟胸腺細胞の死滅(1)in vivo系:OVA-P1及びOVA-P2をTRCトラスジェニックマウスの腹腔に3日間投与し,flowcytometryで検索した。その結果,導入(自然死)により減少することが証明されている。すなわち,胸腺内で抗原と反応するT細胞は可溶性抗原の場合も死滅することが証明された。この可溶性抗原は胸腺外で産生される自己成分と反応するT細胞クローンの排除機序のモデルとなる(米国)。そこで,われわれはin vitroの系で死滅排除されるOVA反応性T細胞クローンの分化段階をさらに詳細に検索し,かつ将来死滅シグナルを誘導する分子を解明する目的で,昨年樹立した腺ストローマ細胞クローン(TNC-R3.1)とトランスジェニックマウスの胸腺細胞をOVA-P1或いはOVA-P2の存在下で培養した。その結果,OVA-P1との共培養にて,分化途上のCD4^+CD8^+細胞のみが減少した。すなわち,in vitroの系でも抗原と反応した未熟胸腺細胞が排除されることを明らかにした(日米共同)。 (3)superantingenを用いたin vitro系:米国で作製した他抗原(H-2L^d)特異的TCRトランスジェニックマウスはsuperantigenであるstaphyrococcus enterotoxin B(SEB)に反応する。このマウス胸腺細胞をTNC-R3.1上でSEBと共に培養すると,通常可溶性抗原と同様にSEB特異的にCD4^+CD8^+細胞が減少した。この結果はTCR-αβによってMHC分子により提示された抗原でなく,TCR-βに結合した分子からのシグナルでも未熟胸腺細胞は死滅することが明らかとなった(日本)。以上の結果と昨年の結果から胸腺内で分化する過程でT細胸が自己抗原を認識した未熟T細胞が死滅除去される現象を再現するin vitroの良いモデルを作製することに成功した。今後は,それぞれ或いは共同研究を続けることによって,細胞死を誘導する分子及びシグナルを明らかにするべく研究を進める予定である。
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