研究課題
国際学術研究
平成5年度は、励起子緩和による表面からの原子放出ならびに固体内部における欠陥生成について、理論的な研究を行い、実験結果と比較した。平成4年度までに、励起子緩和による格子欠陥の生成ならびに表面からの原子放出について、ICECAP計算機コードを用いたHartree-Fock計算を行った。自己捕獲励起子の生成の初期では、励起子の正孔部分が自己捕獲正孔の形を取り、これを構成するハロゲン分子イオンが移動してハロゲン空格子点と格子間ハロゲン原子欠陥対に変換する。申請者らは、分子イオンの並進運動と回転運動の2座標に対する断熱ポテンシャルエネルギー曲面を求め、励起子から欠陥対への変換に、ハロゲン分子イオンの回転運動が必要であることを指摘した。また、表面については、表面近傍のハロゲン空格子点に捕らえられた電子の励起により、アルカリ原子の放出が生じることを明らかにした。平成5年度は、平成4年度までの成果を受け、主として実験との比較を念頭に、実験と理論との不一致を詰めるべく計算を行い、次のように研究を進展させた。1)表面における励起子緩和による原子放出について、実験では励起後放出までに時間遅れがみられる。平成4年度までの計算では、表面近傍のハロゲン空格子点の電子系を基底状態におき、周辺原子を変位させてエネルギー極小値を求め、その配位における基底状態と励起状態との断熱ポテンシャルエネルギー曲面を求めたが、この時間遅れの根拠が明確に出来なかった。本年度は、励起状態における断熱ポテンシャルエネルギー曲面をアルカリ原子の表面からの垂直方向の変位と平行方向の変位を共に考慮し、詳しく計算した。その結果、断熱ポテンシャル曲面の形態は、アルカリ原子の放出方向に強く依存するが、いずれの方向においても原子放出に対するポテンシャルエネルギーの山が存在し、放出に遅れがみられるという実験結果を説明できることが明かとなった。基底状態は、励起状態よりエネルギーが低く、そのためアルカリ原子の放出には、励起状態から基底状態への無輻射電子遷移をともなう必要がある。励起状態の断熱ポテンシャルエネルギー曲面からの無輻射遷移が、原子放出を支配することが明かになった。2)固体内部における緩和励起子の原子構造の計算結果と実験結果が必ずしもよく一致しない。これまでの研究によって、その原因が配位間相互作用ならびに電子相関を考慮していないことによるという見通しを得た。このため、ICECAPコードに配位間相互作用モードを作用させること、さらに配位間相互作用として現在の所最も標準的な計算機コードGAUSSIANを購入し、配位間相互作用を自己捕獲励起子の電子構造解析に取り入れることを試みた。まず自己捕獲正孔と格子間ハロゲン原子の電子状態における配位間相互作用の寄与を調べた。その結果、共にハロゲン分子イオンで構成される自己捕獲正孔と格子間ハロゲン原子遷移エネルギーの差異が、両センターのハロゲン分子イオンのイオン間距離と配位間相互作用によって説明できることが明かとなった。すなわち、格子間ハロゲン原子のイオン間距離が自己捕獲正孔の場合より小さく、このため配位間相互作用を考慮しない場合の遷移エネルギーは、前者の方が大きい。これに対して、Σ遷移では、配位間相互作用が大きく、そのため遷移エネルギーが押し下げられるが、П遷移では、配位間相互作用が小さい。これにより、自己捕獲正孔に比べて、格子間ハロゲンイオンでは、П遷移のエネルギーは大きく、Σ遷移のエネルギーはほぼ同じとなるという実験結果をよく説明できる。自己捕獲励起子に対する配位間相互作用の効果についても計算を行いつつある。
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