研究概要 |
本調査では平成3年にはワシントン州立大学,州立サン・ディエゴ大学,ヴァンダビルト大学,オハイオ州立大学,及びコロンビア大学の5大学,また,平成4年にはワシントン州立大学,ヴァンダビルト大学,ウィスコンシン州立大学オークレア及びマディソン校,サウス・カロライナ州立大学の4大学,並びに全米教育大学協会(AACTE)の機関においてアメリカの大学における教員の教育,特に学部卒業後の様々な段階での現職教員教育について調査した。州立サン・ディエゴ大学及びヴァンダビルト大学においては,大学と教育委員会等の協力による初任者研修の在り方・方法・内容等について調査し,他の大学等においては,大学院の修士及び博士課程における現職教員教育のあり方・研究指導体制・テーマ等について調査し,更に,シアトル,オークレア等では大学院終了者の教育委員会等教育行政及び学校現場での受入れの在り方についても調査した。その結果,大学と教育委員会等の教育行政の側では現職教員の教育・研修における役割が異なり,それぞれが異なる立場でそれぞれの特徴を生かし,協力できる体制を作り上げることが肝要であり,日本においても早急にそのような体系のもとに現職教員の生涯研修体制を作り上げる事が焦眉の急であることが明らかとなった。 ワシントン州,特にシアトル地区においては大学と教育委員会等の教育行政側との間に緊密な協力関係が保たれ,大学は大学院において現職教員を受け入れている他に,大学内に地域教育委員会との共催でピュジェット・サウンド現職研修センター(PUPDC)を設置し,初任者から熟達教員までの生涯にわたる職業的キャリアの発展に協力し,定期的な研究会の開催等を通して教員の研究指導を行いつつ,教育実践研究の推進を行っている。モデル中学校では大学教官,中学校の指導教員及び現職の大学院学生とがチームを組織し,初任教員の実践的諸問題の解決指導を行いつつ,教員初任者段階における資質獲得の経緯について研究を進めている。 州立サン・ディエゴ大学ではカリフォルニア州との共同での初任者研修を実施しているが,ここでは初任教員に対し週1回その週で最も最大と思われる事柄を報告させ(Critical Insident Writing),その問題の解決を指導しつつ,初任教員にとって重要と思われている事柄の追跡調査を続け,これらの教員にどのような指導を行うべきかの研究を行っている。因みにカリフォルニア州では初任教員就職後1年以内に職を放棄する者が平均して20%以上であったが,この指導を行うようになって,その数は1/10以下になったという。 ウィスコンシン大学では公立学校の教員の研修の協力を行っているが,他の州と同様,教員は就職後5年以内の一定期間に30単位以上の現職研修を大学及び教育委員会独自の科目を取得することとされており,そのことが給与体系に組み込まれている。 大学院の場合には,修士課程・博士課程のそれぞれで異なるが,終了者にはランクの上の給与体系が保証されており,教員は自主的に大学での単位を取得し,それぞれのプランに従って独自の研修を行い,学位を取得している。このことはすべての州で1980年代に実施されている。特に修士課程は夜間等のパートタイム制度の導入により,すでに全教員の30〜40%は修士の学位を取得していると云われている。ホルムス委員会の報告"Tomorrow's Teachers"によれば,教員は5年以内に修士を取得しないと,今後教員免許が生涯更新できないようにすることが勧告されており,アメリカではこのようにして,大学院における現職教育は 生涯研修体系の中に組み入れられることとなった。 アメリカの大学院における現職教員の研究・教育の内容を見ると,実践的項目が多く,特に博士課程においては教育界における最近の問題点についてのテーマが多く,理科の博士課程においては1986年の"Science For All Amerikan"を中心にK-12(幼稚園から高校3年までの教育課程全体)にかかる総合的教育課程の開発を研究テーマとしているものが目立った。これらの博士研究の完成までには約10年を要すると云われており,当該教員は最低1年の全日課程を含むパートタイムの課程で研究を続め,修了後は地域の教育課程専門職等として学校,地域全体の指導に当たることとなる由である。
|