研究概要 |
本特別推進研究3年間のプロテアソームに関する研究において、以下の研究成果を得た。 (1)分子構造解析研究:細胞内でプロテアソームはATP非依存性の20S型とATP依存性の26S型複合体の二つのアイソフォームとして存在すること証明し、種々の物理学的方法により、各々の分子量が約75万と200万であることを決定した。ラット及びヒトの20Sプロテアソームを構成する7種のα型サブユニットと9種のβ型サブユニット群の一次構造をcDNAクローニングにより決定し、その新規性と類似性を基礎に「プロテアソーム遺伝子ファミリー」の概念を提唱した。またウシ酵素の結晶化とX線回折撮影にも成功した。26Sプロテアソームについては高分解能電子顕微鏡解析からキャタピラ-構造モデルを提案するととも総数50個のサブユニット群の同定に成功した。これらの結果より、エネルギー依存性の26S型プロテアソームは細胞内で非常に複雑な分子構成をもつ巨大な蛋白質超分子複合体として存在することが判明した。 (2)分子機能解析研究:ユビキチン・システムは標的蛋白質に結合して分解シグナルを提示する機能をもち、このユビキチン化された蛋白質を26S型プロテアソームがエネルギー依存的に分解することを証明した。更にこの酵素複合体が細胞内での半減期が最も短いオルニチン脱炭酸酵素をユビキチン非依存的に分解することを世界ではじめて明らかにした。 (3)生理機能解析研究:26SプロテアソームがATP依存性プロテアーゼとして細胞周期の進行に関与する調節因子群、Mos,Fos,Mycなどをユビキチン依存的に選択的に分解する事を証明した。特に、Fosの分解には複数の蛋白質キナーゼ群による翻訳後修飾が必須でありJunが促進的に作用したが、v-Fosはこの分解システムによる脱感作機構から逸脱していることを見い出した。これらの研究によりプロテアソームが短寿命蛋白質群の代謝的安定性を支配することによって細胞周期の制御に関与していることが示唆され、この破綻が細胞周期の異常や癌化を誘発する可能性を示した。また、プロテアソームが内在性の非自己抗原から抗原ペプチドを積極的に生成させる為に、その構造と機能をインターフェロン-γ依存的に変化させることを証明し、プロテアソームが抗原プロセシング酵素としてMHCクラスI-拘束性の免疫応答に関与することを示唆した。そして、この多様性機能を獲得する為の分子構成の変化を「分子適応」と考える新概念を提案した。
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