研究課題
本研究では、予防的腔内注入化学療法が広く行われ、しかも経時的に組織生検試料が得られる膀胱癌を対象として、膀胱癌における薬剤耐性獲得機序の解析を試み次のような知見を得た。膀胱尿路上皮癌における多剤耐性遺伝子産物Pーglycoprotein(PーGP)の発現を本遺伝子産物に対するモノクロ-ナル抗体であるMRKー16を用いた免疫組織診断法により検討してみた。その結果、正常膀胱粘膜はMRKー16陰性であったが、膀胱癌未治療例31例中11例(35%)がMRKー16陽性と判定された。細胞異型度が高い腫瘍にMRKー16陽性率が高い傾向みられたが、推計学的有意差はなかった。膀胱癌でのMRKー16陽性率は、腎細胞癌未治療例の陽性率(20例中6例、30%)とほぼ同様であった。一方、再発性膀胱癌では、抗癌剤投与例での陽性率が初発例ならびに抗癌剤非投与例より有意に高値を示した。これらの事実は、腎癌のみならず膀胱癌の一部では内因性にPーGPが発現しており、このような膀胱癌ではアンスラサイクリン系抗癌剤ならびにビンカアルカロイド系抗癌剤に自然耐性を持つことを示唆している。また、膀胱癌では抗癌剤投与があらたにPーGP発現を誘導する可能性が示唆される。これらの知見は、膀胱癌における個々の腫瘍の抗癌剤耐性の多様性と薬剤耐性獲得機序の一面を明らかにしたもので、薬剤耐性を回避する効率的な化学療法の開発・導入の基礎資料になると考えれる。
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