本年度は、第1にras蛋白が、IGF受容体シグナル伝達系をタ-ゲットとして働くことを明らかにする為に、温度変異株のvーrasを発現したBALB/Cー3T3細胞(tsKiーras細胞)を用いた実験を行った。この細胞は、40℃では親株の細胞と同じに挙動し、37℃への変換で、ras作用によりトランスフォ-ムすることが知られている。40℃で静止状態としたts細胞は、PDGFとEGFの処理で、IGFーIIによるカルシウムの流入を煮起した。40℃の細胞を、37℃に変換すると、それだけで細胞は、IGFーIIに対してカルシウム流入を煮起した。このとき、Gi_2の活性は、40℃ではIGFーIIによって煮起されないが、ras作用の発現と共に煮起された。以上の事実は、静止期細胞では、IGFーII受容体とGi_2間が脱共役しており、rasの活性化は、両者を共役状態に変えることを示している。すなわち、rasは、IGFーII受容体、Gi_2のいづれかに働いて、機能することが明らかとなった。第2に、以上の結果をふまえて、rasのIGFーII受容体ーGi_2共役活性化作用が、細胞の癌化作用の主因か否かを明らかとする為に、ts細胞が、37℃で軟寒天中にコロニ-をつくる機能に及ぼすIGFの効果を調査した。ts細胞は、40℃では全く、又37℃でも血清非存在下にはコロニ-を形成しなかった。コロニ-形成能に及ぼす効果は、血清と乏血小板血漿とで差がなかったため、PDGFがras作用に要求されることはないと判明した。しかし、下垂体摘除ラット由来の乏血小板血漿では、全くts細胞はコロニ-を形成しえなかった。このことは、ras蛋白はIGFシグナル系に働いて、細胞を癌化させていることを示している。今後、再構成のin vitroの系において、rasあるいはその連関蛋白の作用を同定してゆきたい。
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