癌の転移過程でテロメアの変化が起こるかどうかを505細胞のクロ-ンを用いて調べた。クロ-ニングしたばかりの癌細胞をマウスの皮下注射し、肺にできた転移巣の間でテロメア・パタ-ンの差を調べた。その方法として、細胞からDNAをアガロ-スの中で抽出し制限酵素で処理をしたのち、生じたDNA断片をパルスフィ-ルドゲル電気泳動で分離した。ゲルを乾燥させ、それに対し合成テロメアをプロ-ブとしハイブリダイゼ-ションを行なった。肺転移巣のうち1つに親細胞にはない約180kbのバンドが観察された。これはテロメアが転移過程で伸長したことを示唆する。さらに505細胞の転移系でみられたテロメアの伸長が、他の癌細胞でもみられるかどうかを低転移性癌細胞のBMTー11を用いて検討した。 まず、BMTー11から1クロ-ンを得て、これをもう1度in vitroでクロ-ニングを行ない、これらのクロ-ンの間でテロメアのパタ-ンを比較した。テロメアは3種類のパタ-ンに分類され、癌細胞のテロメアが変化し易いことが示された。次に癌細胞をマウスの尾静脈に注入し、得られた肺転移巣で検討した。肺転移巣から得られた細胞のテロメアは多様なパタ-ンをとっていた。また、4つの転移巣でin vitroクロ-ンにはみられない約250kbの長さのバンドが観察された。 以上の結果に示されるように、転移巣では特に長いテロメアをもつ癌細胞が高頻度にみられた。これは、長いテロメアをもつ細胞が転移過程において優位に選択されていることを示唆する。すなわち癌細胞の悪性化、特に転移能の獲得のためには、テロメアを保持しさらに長くする能力を得ることは一つの重要な因子になっていると考えられた。
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