研究概要 |
マウステラトカルシノ-マF9細胞を用いて、腫瘍性増殖から細胞分化への切り換えに決定的役割をはたす遺伝子の温度感受性(ts)変異株と考えられるものを分離できたので,この変異遺伝子の単離・解析を試みた。 まず野生株F9細胞より岡山ーBerg法によりcDNA libraryを作成した。今回用いたcDNA libraryは全体の5〜6割が完全長のものと思われ,これをts株に形質転換すれば変異遺伝子を相補する事が期待される。形質転換効率(G418耐性率)は約1/250であり実験可能なレベルであると考えられた。約5万株のG418耐性株から軟寒天培地且つ高温での選択で,約40株の高温耐性の野生型復帰株が分離された。この時,自然復帰率は10^<ー6>程度であるのでこの頻度は有意なものと思われた。各細胞株よりゲノムDNAを抽出し,プラスミド回収法にて各々10〜30種のプラスミドが回収された。これらを用いて第2次形質転換を行い,野生型復帰株の回収を試みたところ,約10細胞株由来のものより高温培養下軟寒天中でのコロニ-形成がみられた。うち任意の10個を細胞株としたのちゲノムDNAを抽出し,プラスミド回収法を行い,インサ-トを確認したところ共通なパタ-ンを示すものが2種(各々17kbpと2kbp)得られた。この2種のプラスミドを再びts変異株に形質転換し,ts性を相補するか否かの確認を行ったところ,17kbpのクロ-ンで高温培養下でのコロニ-形成能が数倍程度上昇したが,第1次,第2次に比べて期待した程のts相補活性の上昇は見られなかった。現在他の復帰株からの回収及び異なるプラスミド回収法を試みるとともに,自然複帰株との選別法を検討しており、これら増殖・分化に関与する遺伝子を単離する事により幹細胞の増殖・分化の機構に対する理解が進むものと期待される。
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