研究概要 |
家族性大腸腺腫症(FAP)患者に発生した腺腫と癌における対立遺伝子欠失(欠失)を解析した結果、腺腫の発生と高異型化におけるAPC遺伝子領域の欠失の関与、腺腫から粘膜内癌への転換におけるp53遺伝子領域の欠失の関与、および粘膜内癌から浸潤癌への進展におけるDCC遺伝子領域に欠失や染色体の22q欠失の関与が明らかになった。 今年度新たに、一般集団に発生した中異型腺腫、高異型腺腫、粘膜内癌、浸潤癌について遺伝子変化を解析した結果FAPと同様の変化が染色体5q,17p,18q,22qに検出された。5qの欠失は中異型腺腫で14%、高異型腺腫、粘膜内癌、浸潤癌で40〜47%の頻度で検出された。17pの欠失はFAPの場合と同様に腺腫では検出されず、粘膜内癌になって初めて検出され、その他の異常もFAPと同様の頻度で検出された。これらの結果から、FAPと一般集団の違いは腺瘍発生の段階だけにあると言える。 17pの欠失を調べたFAP患者の腫瘍274検体についてp53遺伝子の突然変異をPCRーSSCP法により解析し、56個の変異を検出した。これらの変異が多段階発癌のどの過程に寄与するかを明らかにするため、腫瘍の病理組織診断と対比させた。その結果、腺腫から早期癌への転換(コンバ-ジョン)とp53遺伝子の変異と欠失による不活性化が必須であることが明らかとなった。 さらに、浸潤癌では新たに染色体1pの欠失が約30%の頻度で検出された。培養大腸癌細胞に正常1番染色体を移入すると癌形質の抑制が観察されたので、1pにも大腸癌の抑制遺伝子が存在すると考えられる。
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