研究概要 |
本研究では波浪によるラディエイションストレスを考慮した,差分法に基づく高潮の数値モデルを作成し,台風時の大阪湾を対象として波浪追算から波浪の影響を評価した場合の高潮計算を行った。すなわち,まず台風モデル法により海上風を推定した場合に,西太平洋海域で深海波浪推算モデルによる波浪追算を行い,紀伊水道境界点における波浪の方向スペクトルの経時変化を算出し,ついで,これを流入境界条件に与えて大阪湾・紀伊水道海域における波浪を浅海波浪推算モデルにより計算し,これから当該海域におけるラディエイションストレスの時空間分布を推定した。台風7916号時の波浪追算結果は大阪湾内のMT局および神戸港における波浪観測結界と比較的よく一致することから,大阪湾内の波浪は波浪追算により良好な精度で評価されると判断された。一方,高潮計算は,まず外洋の土佐湾海域において波浪の影響を考慮した場合と考慮しない場合について実施し,両者の比較から,土佐湾海域の水深がかなり大きいので,外洋での高潮に及ぼす波浪の影響はほとんど見出されないことを示した。ついで,土佐湾海域で計算された高潮偏差を紀伊水道地点に与えると同時に,紀伊水道および播磨灘境界線上で与えた主要4分潮にた進る潮流の計算結果を初期条件として,大阪湾・紀伊水道海域における高潮計算を,波浪の影響の有・無の場合について別々に行った。そして大阪湾内における高潮の計算結果や観測結果との比較から,波浪は大阪湾全体の水位を増大させるが,その絶対値は水深10m程度の地点で波高2〜3mの波浪条件に対してわずか数cm程度であり,実用上無視しうることがわかった。しかし,水深数mの小海域沿岸部や波高が10mに及ぶ外洋沿岸部では,砕波を伴う波浪がdynamicな関係を通じて高潮に及ぼす影響は無視しえないと考えられるので,今後地形分解能の高い波浪・高潮結合計算による検討が必要であることが示唆された。
|