研究概要 |
太陽紫外線によってヒト皮膚の細胞に誘発される突然変異をDNA塩基配列レベルで解析することを目的として、紫外線に高感受性を示す色素性乾皮症(XP)患者の日光露光部に生じた皮膚がん組織細胞におけるras遺伝子の突然変異を解析した。病理標本として、ホルマリン固定、パラフィン包埋された26例のXP患者皮膚がん組織より5μmの薄切片を切り出し、PCR法でHー,Kー,Nーras遺伝子の12,B,61番目コドンを含むDNA断片を増幅させた。Kーras遺伝子の61番コドンを含むDNA断片は増幅が困難で14列についてのみ充分な増幅が得られたが、他のDNA断片は全26例について問題なく増幅された。これらのDNA断片をナイロンフィルタ-上にスポットし、各々の遺伝子の各々のコドンについて、 ^<32>Pでラベルされた正常型、突然変異型のオリゴヌクレオチドプロ-ブとハイブリダイゼ-ションを行った。正常型のプロ-ブに対してはどのがん組織から増幅させたDNAも明らかなハイブリダイゼ-ションを示した.しかし、突然変異型プロ-ブと有意なハイブリダイゼ-ションを示したのは、Kーras遺伝子の61番コドンの1つの突然変異型に対して1つのがん組織由来のDNAだけであった。すなわちXP患者の皮膚がん組織においてはras遺伝子の突然変異はほとんど生じていないと結論される。このことは、XP患者の皮膚がんには突然変異は生じていないと考えるよりも、ras遺伝子以外のがん遺伝子、がん抑制遺伝子に変化が生じ、それによって皮膚細胞ががん化したと考えるほうが正しいものと思われる。今後は他の遺伝子についても同様の解析を試みる必要があろう。
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