研究概要 |
本研究の目的は、三次元結晶に比べて制御の次元が少ない二次元結晶系に着目し、分子構造と結晶構造の相関性を明らかにし、結晶工学における分子設計の指針を確立しようとするものである。すでに我々は水中で自己会合し二分子膜を形成する様々な両親媒性化合物が、二次元層状構造を基本とする結晶構造をとることを見出した。とりわけアゾベンゼン発色団を疎水部に有する両親媒性化合物CnAzoCmN^+の化学構造と結晶構造の相関性を検討した結果、親水基(N^+)とアゾベンゼンをつなぐスペ-サアルキル基の炭素数mが5の化合物群では、分子が膜面に対して傾いて配向したJ会合体をm-nが2以上の化合物では入れ子構造のH会合体を形成することを見出した。またH会合体を形成するものは、加熱によりJ会合体へ相転移し、J会合体は加湿によりH会合体に戻る。HからJへの熱相転移には著しい奇偶効果が見られ、m-n=2をみたす化合物群では奇数のm,nのほうが高い相転移温度をしめす。単結晶構造解析の結果、奇数と偶数では同じ入れ子構造ではあるものの親水部、とりわけアンモニウム基と隣接する化合物の親水末端のヒドロキシル基の相互作用が異なることが明らかとなった。熱転移によって生じたJ会合体からH会合体に等温的にもどるプロセスは湿度に大きく依存し、相対湿度50%以下ではほとんどおこらない。乾燥条件下でJ会合体に紫外光を照射するとH会合体が再生された。光照射初期にアゾベンゼンのシス体にもとづく吸収が出現することから、アゾベンゼンのトランスーシス光異性化反応をトリガ-としてJ→H転移が誘発されたことになる。光誘起相転移はmーnが2以上の化合物で一般的に観察されたが、転移の速度にはアルキル鎖長依存性がみられ、奇数のものほどはやく転移する傾向がある。
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