タリウムを含む超伝導体とくにTl_2Ba_2CuO_6(Tlー2201)について、出発物質としてBaCO_3の熱分解によるBaOを使い、試料調整過程を不活性雰囲気下で行い、金チュ-ブ中に溶封しての、閉じた系での化学量論比の制御された合成を試みた。その上で、相平衡、構造および物性の検討を行った。Tlー2201の場合、正方晶と斜方晶のものが報告されているが、本研究の結果、正方晶はTlがかなり(5%程度)欠損したものであることが判明した。Tlー2201の斜方晶構造は、Laー214と同じく、ヤ-ンテラ-的相転移より生じると一般には理解されているが、X線回折の温度変化実験からはLaー214との類似性は見られず斜方晶相は正方晶相からの相転移から生じるのではなく、Tlー2201は本来的に斜方晶であり、Tl欠損により正方晶に変化するものと理解される。また、斜方晶歪の温度変化は、YBCOやLaー214系と同様に超伝導転移温度以下で変化しなくなる傾向にあり、超伝導と格子特に斜方晶歪の程度との密接な関係を暗示している。核四極子共鳴実験において、結晶構造的にはCuのサイトは1種類しか存在しないが、2種類のスペクトルが観測される。同様のことは、アルカリ±類金属を置換したLaー214系でも観測され、これら超伝導体では、微視的にみれば、局所的環境や電子状態の異なるCuサイトが2種類存在することを示している。Tlー2201の場合、Tlサイトも結晶学的には1種類であるがやはり2種類観測される。また、CuO_2面の酸素サイトは、Laー214系では2種類観測されるのに対し、Tlー2201では1種類しか観測されない( ^<17>O核磁気共鳴実験)。このような、高温超伝導体における局所的構造や微視的電子状態の違いは、今後、高温超伝導機構との関連から興味深い問題である。
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