研究概要 |
高温超伝導酸化物の材料化のためには、臨界温度(Tc)の向上とともに、臨界電流密度(Jc)の向上が重要な課題である。高温超伝導酸化物のような第2種超伝導体においては、内部に何等かの不均一領域があれば、磁束のピン止め力を発生する可能性があるが、ピン止め中心の導入によるJc向上法の一環として、超伝導体に放射線照射を行ない、積極的に照射欠陥を生成させることにより、Jcの向上をはかる研究が試みられている。そこで本研究では、照射欠陥生成によるJc向上を目指し、イットリウム系(Ba_2VCu_3O_<7ーδ>)やビスマス系(Bi_2Sr_2Ca_1Cu_2O_y)試料に放射線を照射した時のTc、Jcの変化を測定し、照射欠陥生成のメカニズムと超伝導特性や結晶構造の変化を明らかにすることを目的とした。平成3年度は、以下に示す成果を得た。 (1)YBa_2Cu_3O_y薄膜試料へのイオン照射効果 YBa_2Cu_3O_y薄膜試料に、重イオン照射装置を用いて、イオン(He^+,O^+,Ar^+,Ni^<2+>)照射を行ない、低フルエンス領域において、輸送Jcの上昇を確認した。このときTcおよび結晶構造の変化は観測されなかった。また高フルエンス領域において、TcおよびJcの低下とC軸格子定数の増大、結晶構造の非晶質化を確認した。これら2つのフルエンス領域を分けるフルエンス(臨界フルエンス)は、照射されたイオンの質量が大きいほど小さかった。 (2)電子線および中性子照射によるBi_2Sr_2CaCu_2O_y単結晶のJcの上昇Bi_2Sr_2CaCu_2O_y単結晶試料に28MeV電子線(フルエンス2.3×10^<18>cm^<-2>)および高速中性子照射(フルエンス1.8×10^<18>cm^<-2>)を行い、VSMによる磁化のヒステリシスの測定により、Jcの上昇を確認した。なお、両者ともJcの上昇率は測定温度・磁場によって異なり、最大値は、0.3T、40Kのときで、それぞれ80倍および600倍であった。
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