研究概要 |
アリル親電子剤と低原子価金属錯体との酸化的付加は、数多くの均一系触媒反応を組み立てる最も基本的な反応ステップであるが,過去の反応例のほとんどは、炭素ーヘテロ原子(ハロゲン,酸素など)結合の切断と、炭素ー金属結合の生成が互いに立体反転の関係で進むものであった。本年度の研究計画を実施したところ,いくつかの電子吸引性オレフィンが配位したゼロ価パラジウム錯体と5ー置換シクロヘキセニル誘導体(塩化物,臭化物)との反応が、ある条件下でまったく珍らしいシン付加(立体保持)で進行することが判明した。電子吸引性オレフィンとしては、ジベンジリデンアセトン,無水マレイン酸などが適当であり、5位の置換基としては、メトキシカルボニル基,メチル基などが使用された。反応の立体化学の決定には、反応溶媒の選択がきわめて重要な役割を果たし,ベンゼン,塩化メチレン,テトラヒドロフランなどの非極性溶媒中の反応でシン付加が生起し,アセトニトリル,ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド,アセトンなど極性の高い溶媒中の反応では、従来通りのアンチ付加が進行した。なお反応の立体化学の確認方法としては、生成物であるη^3ーシクロヘキセニルパラジウムハロゲン化物二量体を単離し,高磁場NMRスペクトルの解析,トリフェニルホスフィン付加物のX線構造解析を行なった。パラジウム錯体に類似のジベンジリデンアセトンー白金錯体と上記ハロゲン化アリルとの反応では、塩化メチレン中でも、高いシン選択性は発現しなかった。ホスフィン配位のゼロ価パラジウム錯体と上記ハロゲン化アリルとは、従来通りのアンチ付加で酸化的付加生成物を与えた。
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