研究概要 |
目的:真核生物では、転写と翻訳の場所と時間が異なることから,翻訳制御の重要性が増大する。翻訳制御に関し、ペプチド鎖伸長反応の制御系は不明であったが,筆者らはカイコ絹糸腺の系で,伸長因子EFー1のリン酸化による翻訳制御系の存在を明らかにするとともに,EFー1に結合しているRNA(EFー1RNA)を発見した。本研究では,このRNAの構造を明らかにするとともに,EFー1のリン酸化に対する本RNAの影響等を解析し,翻訳制御における本RNAの生理的機能を推定する。 方法:(1)EFー1RNAの塩基配列をもとに,ホモロジ-検索を行ない,二次構造,類似のRNA等を検索し,本RNAの機能を推定する。(2)カゼインキナ-ゼII類似のβーキナ-ゼが,EFー1のβサブユニットをリン酸化するので,この系にEFー1RNAを添加し,βのリン酸化および活性を解析する。 結果:(1)EFー1RNA,246塩基のRNAで,分子全体にわたり二重鎖を形成し,全二次構造のエネルギ-は-129Kcal/molであった。ホモロジ-検索の結果,本RNAの3側半分は,カラヌスの28srRNAの3'末端部と82%のホモロジ-があったが,5'側半分は21%のホモロジ-であった。これらの亊実等から,本RNAは新規のRNAと判断した。(2)EFー1RNAは,コムギ胚芽無細胞系でのタンパク合成を阻害するとともに,βーキナ-ゼによるEFー1βサブユニットのリン酸化を阻害した。βーサブユニットは,大腸菌のEFーTsに相当する因子であり,脱リン酸化によりタンパン合成促進活性が消失し,再リン酸化で活性が回復する。 以上の結果は,EFー1をめぐる新翻訳制御系を確立する突破口となるものと考えられ,今後その分子機構を詳細に解析する必要がある。
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