本研究では、シナプスにおける伝達物質放出の活動を光顕によって直接捉えることを目指し、シナプス仮説を最終的に実証し、顆粒融合の動的な特性を調べて、膜融合の謎を解くことを最終目標とする。このために、培養クロマフィン細胞が形態学的にシナプスと類似の構造を形成した終末においてエキソサイト-シスの超高倍率光学顕微鏡観察をし、次のようなことがわかった。分泌顆粒は終末内で常に揺動しており、頻繁に細胞膜に接着しては離れることを繰り返している。この揺動の程度は電気刺激の有無によって変化しない。したがって、顆粒は放出可能群と予備群とに部位によって分けられる様なものではない。刺激後に分泌頻粒が細胞膜に接着するか、もしくは、接着中に刺激が加わると融合過程が起動しエキソサイト-シスが起こる。刺激によって顆粒が急速に細胞膜に衝突することはない。顆粒同士は細胞内で融合しない。顆粒は、融合開始前に膨らむことはないが、融合開始直後には膨らむことがあり、Ω形の顆粒膜は大きな陥没孔に成長することがある。このような陥没孔には顆粒がよく融合する。その融合にいたる過程は、化学反応に似て、分子同士の衝突だけでは反応は起きにくいが酵素の働きがあれば反応に至るという状況にある。陥没孔に顆粒がよく融合する事実は、細胞膜が細胞内に進入して顆粒を迎えに行く過程であると考えられる。顆粒膜は細胞膜と融合する以前は他の顆粒膜と融合せず、細胞膜になると初めて他の顆粒膜と融合できるようになる事実は、細胞膜側に融合開始を担う酵素が存在することを示唆している。また、長期増強の一因として、エンドサイト-シス過程の疲労が考えられる。エンドサイト-シスが少ないと陥没孔は成長し、細胞膜面積が増大して、深部に在る顆粒の融合が容易になるのでエキソサイト-シス数は増加する。以上、本研究で初めて分かったことや示唆されたことは多数である。
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